それは「投資家が多ければ増えます」ということなのですが、セミナーで、「投資信託は買い付ける投資家が増えれば残高が増えるのはわかるのだけれども、取引所で売買されるETFは右から左へ保有が移るだけなのに、どうやって残高が増えるのでしょうか?」というご質問を頂戴したことがありました。ETFをするどく捉えた質問だと思いました。今回はこのご質問にお答えしながら、ETFの資産残高の増減メカニズムについてご説明したいと思います。

ETFと裏付け資産(株式)の市場価格との関係

実際にはありえないのですが、例として1銘柄の株式で構成される指数に連動するETFがあったとします。その1銘柄の株価が1,000円だとすると、その銘柄に連動するETF(その1銘柄の株式をパッケージしたファンド)も、ほぼ1,000円で取引されます。ほぼと言ったのは、ETFというパッケージをすることによって得られるメリット(取引し易くなること等)とデメリット(信託報酬といったコストがかかること等)が価格に織り込まれるからです。

このETFを、現在の価格(1,000円)で売りたいという投資家と買いたいという投資家が同じだけいたとした場合、現在の価格(1,000円)で売買が折り合うはずです。ところが買いたいという投資家が売りたい投資家よりも多くなった場合、買いたい投資家は早く買うか、現在の価格(1,000円)よりも高い価格で買わなければならなくなります。現在の価格(1,000円)の売り物が無くなると、一段上の呼び値にしか売り物がなくなり、どうしても買いたい投資家は、その一段上の売り物を買いに行くようになり、ETFの価格が上昇しはじめます。1,000円が1,010円になり、1,020円になって行きます。ETFにさらに買いが集まってくると、どんどん価格は上昇します。ところがこのETFが連動対象としている株式が1,000円の価格のままで取引され続けるということはありません。このままではETFを買うより株式を買うことが新たに投資をする投資家にとっては有利になってしまいます。結局ETFと株式の価格は裁定が働き、価格は均衡していきます。

ETFの市場価格と裏付け資産(株式)の市場価格との関係

指定参加者が大活躍価格収束メカニズム

ETFやETFが連動対象としている株式の取引市場には「指定参加者」と呼ばれるETFを直接設定および解約できる契約関係を持った証券会社がいます。その証券会社は株式を市場において1,000円で購入し、その購入した株式をETFに仕立て、先ほどのETFが1,010円や1,020円になっている市場で売却すれば、収益をあげることができます。そこで、証券会社がどんどん株式を購入しETFを設定して、そのETFを売却すると、株式の価格は上昇しETFの価格が下落します。その結果、株式とETFの価格が均衡するようになります。ここで見られるように、ETFの買い手が多ければ指定参加者と呼ばれる証券会社を経由してETFの設定が進み、残高が増加します。

ETF口数の増加

一方、ETFを買いたいという投資家が売りたい投資家よりも少なくなった場合はどうでしょうか。前述の逆で、ETFの価格は下落します。990円、980・・・950円となっていくにもかかわらず、このETFが連動対象としている株式が1,000円の価格のままで取引されているとしたら、再び指定参加者と呼ばれる証券会社が活躍します。たとえば950円でETFを購入し、ETFを解約して連動対象となっている株式を取り出し、その株式を現在の株式価格で売却します。この結果、指定参加者の手によってETFの解約が進み、残高が減少します。

ETF口数の減少

以上のように、株式とETFは指定参加者の働きによってほぼ同一の価格がたもたれていくことになります(ただし、この裁定が効きづらいETFもありますし、過剰な需給や市場の混乱等で一定の価格の関係が維持できない場合もあります)。

投資家のニーズによってETFの残高が増減

当該ETFを保有したいと思う投資家が多ければETFの残高は増加し、逆に投資家が少なければ残高が減少して行きます。当たり前ですが、投資家ニーズのないETFは大きくなれないのです。

グラフは当社が設定している日経平均株価に連動するETF(上場インデックスファンド225:銘柄コード1330)の受益権口数の設定来の推移です。
一般にETFなどの残高を言う場合、純資産残額を指します。しかしながら純資産額の場合、ETFの価格変動要因が混ざってしまいます(純資産額=ETFの基準価額×受益権口数)。価格変動要因を取り除いた設定と解約の状況を見るためには受益権口数の推移を見るのが適当です。

上場225(銘柄コード:1330)の受益権口数の推移

こちらのグラフを見てもおわかりかと思いますが、ETFは大量の設定や解約があるのがわかります。ETFは、単純にファンドを取引所に上場させたという静的なものではなく、市場取引メカニズムに上手く組み込まれた、ダイナミックに残高と価格が変動する動的な仕組みなのです。

ETFの発明

ETFの仕組みの原型を考えた人は、米国人のネイサン・モスト氏(1914-2004)で、アメリカン証券取引所の仕事をしていた70歳代頃のアイデイアです。第二次世界大戦中、日本の潜水艦を捕促するソナー技術等の研究に従事した技術端の人だそうです。ネイサン・モスト氏がアメリカン証券取引所の仕事をしていた当時は株式バスケット取引の研究が盛んで、ETFはこの株式バスケット取引を効率的に行なうために開発されたものでした。この発明も実現までにはかなりの時間を要しました。1987年にSECとETFの仕組みの導入の議論を始めたようです。米国の市場にETFが上場するよりも先の1990年、カナダトロント証券取引所にTIPs35という世界最初のETFが上場、さらに3年後の1993年に、あの有名なSPDR(S&P500のETF)のアメリカン証券取引所への上場が実現することになります。

現在、米国では取引高上位の銘柄はETFが占め、全取引高の3~4割がETFになっています。また、世界中の各証券取引所にETFがどんどん上場され、市場はどんどん大きくなっています。一方、日本のETFマーケットは、関心が高まってきているものの、規模的には足踏みをしている状態です。しかしながら、制度の改正も進み、様々なETFが上場してきています。

ETFの先進国の米国では、ETFをベースに様々な派生商品の組成も行なわれており、ETFは証券取引市場のインフラストラクチャーになっています。当社もそのような証券取引市場のインフラストラクチャーに成り得るETFを開発、上場し、社会に不可欠な運用会社の地位を確立して行ければと思っています。ETFの発明者であるネイサン・モスト氏のように、〔年老いても〕柔軟な発想を続けて、困難であっても諦めずに世の中に役に立つ商品を作り続けて、また、ETFの活用を広めて行ければとも思っています。個人的な本音も言うと、日本の少子高齢化を考えると自分も許される限り働き続けないといけないと思われるので、ネイサン・モスト氏を見習えと自分に言い聞かせています。

以上