2013年5月7日
2013年4月4日、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社主催のETFコンファレンスにスピーカー及びパネリストとして参加いたしました。このコンファレンスは、2009年から始まり、今年で5回目を数え、年々、規模・内容共に拡大してきています。このコンファレンスのスピーカーとパネリストは日本だけでなく世界的なETF業界の著名人が一堂に会し、聴衆も名だたる機関投資家の方々を中心にマスコミ関係の方々も参加しています。2012年には日本銀行によるETFの買い付けもあって、日本のETF市場の成長も、投資家のETFの理解も一段次のステージに入ったと言われています。このコンファレンスに参加したパネリストの発言に「今まで運用会社や指定参加者等みんなでETF市場を拡大させていこうと一緒にがんばってきたが、最近それぞれで取り組んでいるんですよ。環境が変わってきた。販社がよりETFビジネスについて考えるようになり、また日本のETFのすべての状況を把握することが難しいほど、ETFの市場が動いている。」とあり、日本でも本格的なETFの普及・拡大期に入ったことをよく表しているのではないかと思いました。
日銀のETF買い増し決定:重ねてETFの流動性についてのご説明
このコンファレンスの開催中、日銀の政策決定会合において、長期国債の買い入れ拡大、今年1兆円のETFの買い増し等が決定、発表されました。投資家に債券偏重の運用からリスク資産への運用を促すのに合わせて、日銀自体もETFを通じて日本の株式市場へ流動性供給を行なうという強烈なメッセージと思われます。市場の受け止め方や金融紙面の受け止め方は様々ですが、中にはETFに対する間違った理解で書かれたものも散見され、ここでもう一度ETFの流動性についてご説明します。
その誤った論調の典型例は、(1)市場規模に比して買付金額が多額、(2)売買代金に比して買付金額が多額といった「井戸の中の鯨」的なものです。2013年3月末の日本籍ETFの純資産残高は5.2兆円で、2012年のETF年間売買代金がおよそ4.4兆円です。これらの5.2兆円や4.4兆円に対して日銀の買い増し目標の1兆円を比較していますが、この比較はあきらかに筋違いです。この認識の根底には「ETF=株式」のような受け止め方があるのではないかと推察されます。株式は簡単に増資や減資ができません。もし、ETFが追加設定や解約(交換)を簡単に認めないクローズドエンド型のファンドであれば、この比較はおおむね正しいのですが、随時、追加設定や解約(交換)できるオープンエンド型のファンドなので、全く意味合いが違ってきます。ETFの投資対象に流動性があれば、投資家の需要に応じて、いくらでも追加設定をして、その需要に応じることが可能です。逆に需要が無くなれば、解約(交換)をして(最終的には株式を売却して)対応します。日銀の1兆円の購入対象ETFは日経225とTOPIXに連動するETFです。これらのETFが投資する対象は東証1部銘柄になります。よって、その株式の時価総額や流動性がそれらのETFの流動性の拠り所になります。337兆円(2013年2月末:東証1部時価総額)や306兆円(2012年東証1部売買代金)に対する1兆円が正しい尺度での比較となります。
このような誤解はかなり根深いものです。前述のETFコンファレンスには毎年参加させてもらっていますが、今年のスピーチの内容も、(1)個別銘柄投資からETF投資への移行、(2)ETFのインサイダー規制適用外、(3)取引の機動性、(4)推定純資産価格(i-NAV)、(5)流動性、(6)会計処理、(7)課税、(8)資産保全スキームで、例年と変わらないことを話させていただいていますが、特に(5)流動性については、毎年、必ずご説明しています。私だけでなく、他の運用会社のスピーカーの方も同じ内容の説明をされていました。コンファレンスの休憩時間にそのスピーカーの方ともお話ししたのですが、繰り返し説明をしていかないといけないことを確認し合いました。
日銀のETF買付によりETFの本格的普及が期待される2013年の課題
日本のETF市場は、日銀のETF買付を中心に引き続き発展していくと思いますが、これは市場拡大につながり、たいへん喜ばしいことなのですが、まだまだETFそのものの仕組みが正しく理解されてはいない現状を見ると、もっと説明の方法や理解してもらえる活動を見直してゆく必要があるのではないかと思っています。
前述のコンファレンスの1か月半前に東京証券取引所主催の東証IRフェスタ(個人向けIRイベント)に当社のブースを出しましたが、以前ですとプレゼンのお客様集めに苦労していたのですが、市場環境の好転を受けて、今年はプレゼンを行なえば座席が満杯になるほどのお客様が聞いてくださいました。お客様の認知と興味が上がってきているこの機会に、一層、説明に工夫をしてお客様のETFの理解を進めて市場拡大に貢献したいと思います。
これからの日本のETF市場には、新規参入者(ETF運用会社)も出てくるであろうし、また、特殊なETFを開発する会社も出てくると思います。今年の前述のコンファレンスの主題は「多様化する資産運用ニーズと変革著しいETP市場の融合を求めて」でした。最近、ETPという言葉が良く使われるようになってきています。ETF(Exchange Traded Funds)に、ETN (Exchange Traded Notes)やETC (Exchange Traded Commoditiesのことで、Electronic Toll Collection Systemではありません)が加わって、それらを総称してETP (Exchange Traded Products)と言われるようになってきています。投資家にとっての選択肢が増えることは喜ばしいのですが、一方、商品の複雑化も進んでいます。ETPの連動対象が、たとえば原指数の2倍で動くレバレッジタイプのものや、VIX指数(ボラティリティ指数)のものなどです。これらの運用の中身はデリバティブですが、ETNも運用の中身はデリバティブ(リンクノートに投資するETFも同様)です。デリバティブだからということではないのですが、日経225やTOPIXといった伝統的なETFよりは理解が難しい商品です。これは商品を提供する側も説明する力を向上させなければならないものになります。ETFの開発者としては、先端的な商品を開発したいという気持は強いのですが、投資家に理解して受け入れてもらえる商品を開発、かつ、しっかり説明をするということを心掛けていきたいと思っています。
引き続き日興アセットのETF、上場インデックスファンドをよろしくお願いいたします。
以上