2倍の価格変動をうたったファンドなのに2倍にならないのはどうしてですか?

レバレッジ運用のファンドについて、ほんとうによく受ける質問です。思い起こせば、日本の市場にレバレッジ・インバースのETFが導入される前、東京証券取引所の方からもこの質問を頂戴しました。また、野村アセットが同ETFを大阪証券取引所に上場させた際も、新聞記者の方からも、同じ質問を頂戴しました。

「2倍の価格変動」というのがポイントで、このレバレッジ運用のファンドはあくまでもファンドの純資産価格(基準価額)の変動率が原資産(日経平均等)の1日の価格変更率の2倍と同じになるというものです。通常、ファンドの純資産価格(基準価額)の変動額が原資産の1日の価格変動額の2倍と等しくなると思ってしまいがちなことによります。

簡単な例を見てみましょう。

  原指数 指数変動率×2 レバレッジファンド
純資産の変動推移
原指数の
変動額×2
一般的な純資産の
変動推移イメージ
開始日 100   100   100
1日目 95 -10.00% 90 -10 90
2日目 90 -10.53% 81 -10 80
3日目 95 11.11% 89 10 90
4日目 100 10.53% 99 10 100

1日目はイメージどおりなのですが、2日目以降はずれが発生します。これは運用の元手の純資産価値が変わってしまっていることによるものです。よく複利効果とも言われます。イメージでは開始日の100に対して考えているのに対して、レバレッジ運用のファンドは当日の純資産額価値をベースに、その倍のポジションを維持し続けます。1日目にあるように、一旦、ファンドの純資産価値が下落すると、下落した時点のファンド純資産価値の2倍のポジションをとるのですが、これは、当初、投資時の純資産価値(100)と比較すると2倍以下のポジションしかとっていないことになるからです。

日興アセットもレバレッジETFを立ち上げます

野村アセット、シンプレクス・アセットに続いて日経平均レバレッジ・インデックスに連動を目指すETF(上場インデックスファンド日経レバレッジ指数(1358)、愛称:上場日経2倍)を8月26日に東京証券取引所に上場させることになりました。

レバレッジ運用のETFの立ち上げに関して、当社では長い議論と検討をしてきました。こちらの経緯にご関心の有る方はコラムNo.22「レバレッジ・インバースETFの上場に想う」をご覧いただければと思いますが、その後もずっと、取引所、証券会社、投資家の方々から日興アセットでも当該レバレッジETFの設定・上場のご要望を頂戴してきました。そんなご要望、ご期待に応えないことは、如何なものかと考え直すきっかけが、今年3月にS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが主催した「第6回ETFコンファレンス」のパネルで楽天証券の方が、今年から始まったNISA口座でレバレッジETFを保有している投資家がかなりいらっしゃるとの紹介があったことでした。

投資家の心情を推察するに、元本を損失することがあっても最大100万円までである一方、キャピタルゲイン収益は高ければ高いほど良いので、価格変動性の高いものに投資したいというものだと思います。しかしながら、中長期的に当該レバレッジETFを保有するのは、あまりいい戦略とは言えません。次のチャートをご覧ください。

チャート

前述の例でも特性が伺えるのですが、こう着相場でも、当該レバレッジETFを保有すると損失になり得る特性があるのです。

大手証券会社の営業担当の方と出張をしたときですが、活発に売買されているレバレッジETFの話題になったとき、このレバレッジETFの特性を営業担当の方がご存知なかったことがありました。まだまだレバレッジETFの特性の理解が広がってはいないと強く感じました。そこで、どうやったらその特性が上手く説明できるのか。どうせ説明するなら商品をしっかり内側からも説明した方が良い説明が出来るのではないかと考えるようになり、自社のレバレッジETFを立ち上げて、そのETFをしっかり説明してみたいと思うに至りました。

日興アセットの上場日経2倍(1358)の特徴

この上場日経2倍(1358)の特徴は、大きく2点あります。まず、1点目は連動対象の日経平均レバレッジ・インデックスとの連動性が、運用の仕組み上、高くなることが期待できること。2点目は、既存のレバレッジETFと比較して信託報酬が安いということです。

日本のETFは必ず連動対象の指数があります。日経平均のレバレッジETFについては、日経平均レバレッジ・インデックスになります。これは日経平均(配当除く)の日々変化率の2倍の動きを表現する指数(インデックス)になります。先行している野村アセットとシンプレクス・アセットは日経平均先物のみで運用ポジションを作っています。ところが指数値は現物株価の変動を2倍にした指数なので、現物と先物の値動きの差異が、インデックスファンドの運用の質を計る指標であるトラッキングエラー値が悪くなる原因となっています。このトラッキングエラー値を改善するためには、現物株式でポジションを作るのが良いのですが、レバレッジのポジション=200%を作るには、借入をする必要があります。また、スワップのようなOTCデリバティブでポジションをつくることも考えられます。しかしながら、現在の日本のファンドの法務・ルール・実務上は両者共に困難です。そこで折衷的な方式であるのですが、現物株式を100%、先物を100%という方法が考えらます。しかし、実務的には先物の証拠金が必要になりますので、現物株式を70%弱、先物130%強という運用になります。このような運用手法は米国のレバレッジETFではよくみられるものです。ところが、ETFの純資産残高が大きくない設定当初は現物株式の運用部分のポートフォリオが組み難いことがあります。また、ETFの小口の設定・解約でポートフォリオが崩れてしまうことがあります。その解決方法として、現物株式に代えてETFに投資することとしました。ETFの特徴の小口で投資できるという特性が生かせるのです。結論として、上場インデックスファンド225(1330)ETFを70%弱、先物を130%強保有する運用としました。この方式ですと、200%先物で運用するよりも、シミュレーションでは凡そ35%のトラッキングエラー値の改善が期待できます。

しかしながら、投資先のETFに信託報酬がかかります。またこの上場日経2倍(1358)にも信託報酬がかかりますので、この二重信託報酬部分の調整のために、上場日経2倍(1358)の信託報酬料率を0.55%としました。実質的な信託報酬料率は0.71%程度になりますが、先行2社の信託報酬料率よりは抑えたものになります。さらに上場日経2倍が保有する上場インデックスファンド225(1330)を貸し出すことがあれば、貸出料収入で実質的な信託報酬を引き下げる効果も期待できます。

この上場日経2倍(1358)を立ち上げることによって、当社のホームページ上でもレバレッジETFのさまざまな特性を紹介できるようになります。当ETFの商品の紹介ページやリスクについても、ぜひ、ご覧ください。また、内外のETFカンファレンス等で発言機会がある都度、責任を持って特性について発言することができるようになります。しっかりと投資家の方々にご理解いただいて、活用いただけるようなことをしていきたいと考えています。

上場日経2倍(1358)の投資の仕方

では、この上場日経2倍(1358)の価格変動特性を踏まえて、上場日経2倍(1358)の投資の仕方を考えてみましょう。

  • (特性①)一旦、下落すると元本が小さくなってしまうので、市場が上昇してもイメージほどには価格が上昇しない。
  • (特性②)こう着相場では、価格が下がってゆく。
  • (特性③)連騰するような相場では、元本が膨らみイメージ以上に価格が上昇する(複利効果)。
  • (特性④)続落する相場では、元本が縮小することによってイメージ以上に価格が下落する(複利効果)。

個々の投資家によって適合する投資タイミング、投資スタイルは異なりますが、以上の①から④の特性を踏まえると、まず、①の特性から逆張り的な買い方はあまり有利ではないかと思います。先行している2社のETFの設定、解約状況を見ていると逆張り的に投資家が入っているように見受けられますが、この①の特性を考えると、不利でないかと思われます。また、長く保有すると②の特性もあり、やはり不利でないかと思いますので、損切りは早いほうが良いかと思われます。また、③と④の特性からするとトレンドフォロワー的な使い方が有利なのかもしれません。上級者にとっては、②や④の特性から空売りを使うこともあるかもしれません。ただし、逆日歩等、空売りのコストには注意が必要です。

以上のようなことを見ると、相場の状況をよく見ていることができる投資家が、比較的、短い投資期間で売買を繰り返すような投資ツールとして使うのが合っているとご理解いただけると思います。そのようななか、上場日経2倍(1358)と先行2社のETFを比べると、当初、市場出来高が少ない状況になると思いますが、ETFの流動性の根源はETFが投資対象としている資産に流動性があるか否かによります。よって、上場日経2倍(1358)は、投資対象の上場インデックスファンド225(1330)は日経平均採用銘柄の流動性と日経平均先物の流動性が流動性の拠り所ですが、世界の投資対象のなかでも流動性の高い投資対象です。流動性の面についてはご安心してお使いいただけるものと思っております。

上場日経2倍(1358)は価格変動特性の高い、リスクの高い運用商品ではありますが、その特性を正しくご理解いただいて、局面にあった使い方をしていただくと大きな運用成果を期待できるETFです。局面に応じて、運用の一つのツールとしてお使いいただければと思います。引き続き、日興アセットのETF、上場インデックスファンドシリーズのご愛顧を、ぜひ、お願いいたします。