この度、弊社が運用・管理する一部のETFにつきまして繰上償還を予定しております。今回のコラムでは、そのご報告とETFの繰上償還制度についてご説明させて頂きます。

当社ETFの繰上償還の予定のご報告

以下5本のETFの繰上償還を予定しています。

  • 1316:上場インデックスファンド TOPIX100日本大型株
  • 1317:上場インデックスファンド TOPIX Mid400日本中型株
  • 1318:上場インデックスファンド TOPIX Small日本小型株
  • 1544:上場インデックスファンド日本株式(MSCIジャパン)
  • 1556:上場インデックスファンド日経中国関連株50

上記ETFは交換(解約)が進み、現在、純資産残高が3~7億円程度となっております。その純資産残高の減少に伴なって、「運用の基本方針」に則った運用の継続が困難な状況になっています。 「上場インデックスファンド TOPIX100日本大型株」は2009年6月3日の追加設定以降、追加設定がなく、それ以外の4本のETFについては当初設定以来、一度も追加設定が無い状態でした。 当社が新しいETFを立ち上げるにあたっては、各証券会社や投資家の声を事前に聴いて参考にしているのですが、実際に立ち上げると、想定に反して追加での投資をしていただけませんでした。これらETFの純資産残高が縮小するなかにあっても、ここ数年、機関投資家の方々を中心に、これらETFの活用方法のご提案を繰り返しさせていただきました。また、海外の証券会社にも販路を開拓しようとして御相談もさせていただきました。しかしながら力及ばず純資産残高の減少に歯止めをかけることができず、「運用の基本方針」に則った運用の継続が困難な状況となってしまいました。投資家の皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、繰上償還をする手続きに入ることを決断させていただきました。
投資家の皆様に繰上償還の賛否のご判断を仰ぐ書面決議で可決された場合には、2015年7月3日を取引所最終売買日とし、7月8日に償還することとなります。 日興アセットにとって、ETFの繰上償還は、2001年の市場参入から初めてのことになります。

ETFの繰上償還制度について

今回繰上償還をするETFは総て現物(株式バスケット)による設定・交換(解約)を行なうタイプのETFです。このタイプのETFの繰上償還に関しては、従前の繰上償還の制度では、ETF受益証券を投資家から回収して現物(株式バスケット)を返却して、最終的に、ETF受益証券を償還のために持ち込まない投資家もいるため現物(株式バスケット)と同価値のETF受益証券を揃えることが困難になります。小口の投資家には、その保有口数に見合った現物(株式バスケット)を返すこともできません。そこで金銭にて償還することが避けられなくなるのですが、従前はETFの金銭償還時の課税関係が不明確でした。今般、投資信託協会などの関係者が、この課税関係を明確にしてくれました。

金銭償還時の課税は、特定株式投資信託(日本株のみに投資する現物型ETF)の場合、居住者および恒久的施設を有する非居住者(国内投資家)に関しては、租税特別措置法第37条の10第4項の規定により株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなされることから、配当所得に係る収入金額としての源泉徴収がかかりませんが、譲渡所得に対する課税がなされます。一方、恒久的施設を有しない非居住者、内国法人、外国法人は、昔(個別元本方式が導入される以前)の追加型株式投信の課税制度と同じように、ETFの平均信託金を超えた部分に源泉税がかかるというスキームとなりました。これによって、ETFの償還まで投資家が保有した場合、この平均信託金より高い値段でETFを買い付けた投資家は、結果、多めの源泉税がかかり、一方、平均信託金より低い値段でETFを買い付けた投資家には少な目の源泉税がかかることになります。総合課税の内国法人および恒久的施設を有する外国法人においては、税務申告でこの課税を調整していただくことになります。 尚、上場証券投資信託の場合、内国法人および恒久的施設を有する外国法人においては、租特法第9条の4の2の規定により源泉徴収が免除されています。

以上を整理すると以下の表のようになるかと思います。

金銭償還の扱い
  所得 特定株式投資信託
(現物型⇒金銭償還)
上場証券投資信託
居住者 みなし譲渡所得
(取得元本を上回る部分)
確定申告(所得税15%、地方税5%) 確定申告(所得税15%、地方税5%)
内国法人 配当所得(平均信託金を上回る部分) 源泉徴収(所得税15%)
⇒取得元本を上回る部分で総合課税
源泉徴収なし
⇒取得元本を上回る部分で総合課税
非居住者
(恒久的施設有)
みなし譲渡所得
(取得元本を上回る部分)
確定申告(所得税15%、地方税5%) 確定申告(所得税15%、地方税5%)
外国法人
(恒久的施設有)
配当所得(平均信託金を上回る部分) 源泉徴収(所得税15%)
⇒取得元本を上回る部分で総合課税
源泉徴収なし
⇒取得元本を上回る部分で総合課税
非居住者
(恒久的施設無)
配当所得(平均信託金を上回る部分) 源泉徴収(所得税15%) 源泉徴収(所得税15%)
外国法人
(恒久的施設無)
配当所得(平均信託金を上回る部分) 源泉徴収(所得税15%) 源泉徴収(所得税15%)

上の表では所得税に対する特別復興所得税2.1%⇒0.315%は除いてあるが、課税されることに留意
非居住者および外国法人(恒久的施設無)は租税条約の適用がある場合がある

これに加えまして、証券保管振替機構(ほふり)等が規程の見直しを実施したことで、ETFの金銭償還の制度が、税制以外の部分でも整備されました。これによってETFもスクラップ&ビルドの環境ができてきたと言えます。日本のETF市場は撤退が難しいからと参入を見送っていた会社の参入ハードルが下がることになります。今後、新しいETFが市場に投入され、日本のETF市場もさらに多様化が進み、いい意味での競争が激しくなり、市場全体が拡大していくものと思われます。

当社ETFの繰上償還について思うこと

各ETFの新規組成から今般の繰上償還に至るまで、様々な出来事がありましたが、とくに「上場インデックスファンド日本株式(MSCIジャパン)」のケースでは学ぶことが多かったと思っています。

ETFに関しては、設定して取引所に上場するだけでは売買が行なわれないですし、純資産残高も増えません。投資家が投資しようと思うような指数であって、また、売買を円滑に行なうため指定参加者(証券会社)がそのETFを在庫として保有したときにヘッジがかけられることも大事です。日経中国関連株50のような、特に投資家に馴染みのない新しい指数に連動するETFで、指数に先物が無いものに関しては、純資産残高を増やしていくことが難しいです。しかしながら、「上場インデックスファンド日本株式(MSCIジャパン)」の連動指数、MSCIジャパンは世界的に有名であり、海外ETFの連動対象指数として広く使われています。「上場インデックスファンド日本株式(MSCIジャパン)」そのものも、信託報酬といったファンドにかかる手数料については同指数に連動する海外ETFの半分以下の水準でした。当該ETFの立ち上げ、上場直後、いくつもの証券会社からETFの販売会社である指定参加者になるお申し出もいただいていました。また、ヘッジに関しては、TOPIXとほぼ同じ動きをする指数であることからTOPIX先物によるヘッジも容易なETFで、投資家がつくことは間違いないと確信していたのに、今回、繰上償還を提案することになってしまいました。有名で認知されている指数に連動するETFで、手数料を安くしても、それだけでは成功しませんでした。このことから学んだことは、本当に投資家に受け入れてもらえる商品なのかを見誤らないことが肝心ということです。

日本のETFの主要投資家が国内の金融機関であり、既に日本株のETFとしてはTOPIX、日経平均225のETFが複数ある状況下、ETFの銘柄分散(簿価分け)のニーズはあるものの、MSCIジャパンの指数が、国内ではそれほど認知度がなかったことや価格変動特性がTOPIXとほぼ同じとはいっても、別指数なので投資家がわざわざ投資対象とすることが難しかったことを、当初、本当の意味で理解できていなかったと思います。当時はアベノミクス前で、投資マインドも活発でなかったことから新指数への投資も積極的でなかったと思います。

また、期待した海外投資家ですが、規則などの要因により、直接、海外投資家に「上場インデックスファンド日本株式(MSCIジャパン)」を紹介できなかったことがあげられます。 今般は投資家の皆様にご迷惑をおかけすることを決断しました。しかしながら、今後も、日本株だけでなく、海外の株式や債券、その他資産に投資するものなど、投資家の皆様の運用に資するETFのラインナップを充実させていきたいと考えております。事情をご理解いただければ幸いです。

日興アセットはこれからもETFの開発・改良等、日本のETF市場の発展の一助となるように努力・研鑽を続けます。引き続き宜しくお願い申し上げます。