保有しているETFの貸出をしてみませんか

個人投資家、機関投資家を問わずETFに投資をしている投資家の方々にご検討いただきたいのがETFの貸出です。貸出先の信用リスクをとることになりますが、貸株金利収入がETFの投資収益に加算されることになります。

あまり周知されていないETFの活用方法ですが、マイナス金利の時代には貴重な収益源の一つになるのではないでしょうか。また、貸株金利を得ることによってゼロコストで運用できることになる場合もあるのではないでしょうか。たとえば当社の上場インデックスファンドTOPIX(1308)の信託報酬料率0.088%ですが、当該ETFの貸株金利は0.10%(2017年11月15日、某大手オンライン証券の提示)になり、信託報酬料率をまかない、場合によっては付加的な収益を得ることも考えられます。

聞いたところでは、米国のETFに投資する年金基金はETFの貸出に積極的とのことで、このETFの貸出によってETFの流動性が改善していると言われています。これはどのようなことなのでしょうか。

マーケットメイカーとETFの借入

一般にETFや株式の借入は空売りに使われ、市場の売り崩しにつながるのではないかと危惧される投資家も多いのではないかと推察されます。貸出をすることが自分の首を絞めることになることを思われるかもしれません。

確かに、個別株式だと需給バランスを崩す売り崩しの懸念があると思います。一方、ETFの場合、ETFの価格と投資対象の個別株(有価証券)、さらに、先物との裁定関係が成立するので、ETFの売り崩しを仕掛けると裁定取引をしている市場参加者に裁定機会を与えることになりますので、よほどのことがない限りできないものとのことです。先月、世界的に著名なマーケットメイカーのトレーダーと話をしていたときに聞いた話です。

そのマーケットメイカーのトレーダーは日本のETF市場の貸借市場の整備を強く希望していました。というのは、マーケットメイクを効率的に行うにはETFの借入ができることが必要になるからです。

マーケットメイクプロセス

マーケットメイクにETFの借入がどのように役立つのか、上場S&P500米国株(1547)のETFを題材に考えてみましょう。

市場には諸規制(空売り規制)・ルール(決済期日)があることから、通常、マーケットメイカーは市場平均出来高から勘案したある一定量のETF在庫を保有してからマーケットメイクします。まず、ETFの在庫を作るため設定するとした場合、当該ETFを本日に設定の申込をし、明日(申込日+1日)の基準価額で、明後日(申込日+2日)に設定資金を引き渡してETF受益権を受け取ります。但し、マーケットメイカーはこのままでは市場リスクをまるまる抱え込んでしまいますので、通常、ヘッジをします。この場合、基準価額の計算根拠となる時価をターゲットに先物の売り(ETF設定申込日の米国市場の引け)とドルショートの為替予約(申込日+1日の東京10時)を行います。

①ETF(基準価額=申込日の米国市場の引けの買い+申込日+1日の東京10時の為替)と②先物の売り(申込日の米国市場の引け)とドルショートの為替予約(申込日+1日の東京10時)を持って、マーケットメイクに望みます。

しかしながら、東京証券取引所の取引時間では、すでに米国市場は閉まっていますが、シカゴ市場のS&P500の先物の取引が続いていますので、その値段と現在の為替を参考にマーケットメイカーは同ETFの売り買いを取引所に出します。売り買いの差、スプレッドがありますが、それは(1)ETF在庫保有のコスト(信託報酬+買付資金の調達コスト)と(2)ETFの設定コスト(ほとんどの日本のETFには設定手数料はありませんが、多くの外国のETFにはあります)と(3)トレーディングコスト、及び、(4)マーケットメイカーの収益から構成されます。

マーケットメイカーは、ETFを売った場合、上記②の反対売買(先物買いとドルロングの為替予約)を行います。ETFを買った場合、②の追加売買(先物売りとドルショートの為替予約)を行います。このような取引を繰り返し行うのですが、上場S&P500米国株(1547)のETFの設定・解約申込時限(午後2時)前までに、本日の売買を反映したETF在庫の過不足をチェックします。ETFの売超であれば設定、買超であれば解約をします。その際に、特に注意を要するのはETFの売超で在庫がなくなるような場合です。現在、マーケットメイカーでも空売り規制がありますので、ETFの設定申込をしてから売りを出しますが、ETFの設定申込時限の午後2時まででしたら、前述のように申込日+2日にETF受益権を入手できますので、売買日+3日(申込日+3日)の決済日に間に合います。午後2時を超えた時限での申込は翌日の設定申込になりますので、売買日+3日の受渡時限の午後1時に間に合わせるのに、当日の設定資金を10時までに振込、12時にETF受益権を入手して決済時限に間に合わせることがぎりぎり可能ですが、なんらかの事情で間に合わなくなることもあるかもしれません。加えて2019年から株式売買の決済が売買日+3から売買日+2に短縮化されると、午後2時を超えた時限でのETFの設定申込は、決済にETFの設 定が間に合わなくなります。このような場合、力を発揮するのがETFの借入なのです。借りたETFを売却の決済にまわし、設定したETFで返却するのです。ETFを借りる、いつでも潤沢に借りられることを前提にすると、マーケットメイカーは、フェイルのリスクが減少し、安心してマーケットメイクができることになります。

効率的なマーケットメイクから流動性の改善へ

さらに、ETFを借りる、いつでも潤沢に借りられることを前提にすると、マーケットメイクにおいて、ETFの在庫を持つ必要が無くなります。そうすると前述の(1)ETF在庫保有のコスト(信託報酬+買付資金の調達コスト)が削減できる一方、貸株金利の支払いが発生します。このコスト削減のレベルは、信託報酬0.16%+買付資金の調達コスト1.475%(2017年11月15日某メガバンク短期プライムレートを参考)を削減する一方、貸株金利(冒頭のオンライン証券の例では0.10%(これに市場実勢の上乗せがあると思われます))の負担になりますので、大幅なコスト削減になりそうで、ETF取引市場の売買スプレッドも大幅に減らせることが考えられます。スプレッドが減ることで、売買が呼び込まれて売買が活発になり流動性が増して行くことが期待できそうです。

ETFのエコシステムに欠かせないETFの貸出

以上を見てくると、ETF投資家にとってETFの貸し出しは、貸出先証券会社の信用リスクを取ることになりますが、①貸株金利収入、②保有ETFの市場流動性の改善が期待できます。前述のように売り崩しに使われるリスクは少なく、貸出をすることで自分の首を絞めるようなことになることも少ないと思われます。

ETF貸し出しのリスクを認識した上で、ETF貸出を検討するのはいかがでしょうか。

ETFを取り巻く取引環境をエコシステムと言いますが、ETFの貸出は、そのエコシステムを改善するものです。意外なETF運用法=エコなETF運用法をぜひご検討ください。

有価証券の貸付行為などにおいては、取引相手先リスク(取引の相手方の倒産などにより貸付契約が不履行になったり、契約が解除されたりするリスク)を伴い、その結果、不測の損失を被るリスクがあります。お取引の際は、リスクを充分に認識・検討し、投資家ご自身で慎重にご判断を行なっていただく必要があります。