日銀がETFを買い入れていたのはなぜ?どのETFを買い入れていたの?買い入れの概要や対象だったETFもご紹介
- 最終更新日:2024年5月10日(公開日:2020年4月6日)
なぜ日銀はETFを買い入れていたのでしょうか。今回は、日銀がETFを買い入れていた理由と、買い入れていたETFの銘柄についてご紹介します。
日銀の役割とは
そもそも日銀の役割とはなんでしょうか。私たちが普段お金を預けたり、融資を受けたり、利用している民間の銀行は、「市中銀行」と呼ばれます。それに対し、日本銀行(日銀)は、日本の「中央銀行」であり、国の金融の中核を担います。
日銀の中央銀行としての役割には以下の3つがあります。
1.発券銀行としての役割
中央銀行は、その国で唯一、紙幣の発行量を調整することができる銀行です。金利は貨幣(現金+預金)の流通量と相関があり、紙幣の発行により貨幣供給量が増えれば金利が低下し、その反対に貨幣供給量を減らせば金利は上昇します。
2.政府の銀行
政府は日銀に口座を保有しており、政府の資金はその口座で収支を行っています。
3.銀行の銀行
中央銀行は市中銀行から預金を受け入れ、貸出を行っています。この取引により、一時的な資金不足による倒産などの混乱を防ぎ、その役割を円滑に果たせるようにしています。
これらの役割を通して、日銀は「物価の安定」を図ることと、「金融システムの安定」に貢献することを目的としています。
日銀がETFを買い入れていたのはなぜ?
では、なぜ日銀はETFを買い入れていたのでしょうか?日銀は、ETFだけでなく日本の国債やREIT(不動産投資信託)などの金融資産を買い入れていました。これらの買い入れを通して市場にお金を供給することで、市場の資金循環の改善や、予想実質金利の低下、企業の資産価格の上昇といった効果により、「物価の安定」と「金融システムの安定」を目指しました。
日銀によるETFの買い入れは2010年にスタートし、買い入れ額の増額、異次元金融緩和、対象銘柄の追加などが実施され、2024年3月に終了しました。
日次 | ETF買い入れ枠 | 期日 | 付記 |
---|---|---|---|
2010年10月28日 | 残高上限4.500億円 | 2011年12月末 | TOPIXと日経225ETF購入対象 |
2011年3月14日 | 残高上限9.000億円 | 2012年6月末 | |
2011年8月4日 | 残高上限1兆4.000億円 | 2012年12月末 | |
2012年4月27日 | 残高上限1兆6.000億円 | 2012年12月末 | |
2013年1月22日 | 残高上限2兆1.000億円 | 2013年12月末 | |
2013年4月4日 | 年1兆円増*1 | 異次元金融緩和 | |
2014年10月31日 | 年3兆円増*2 | ||
2014年11月19日 | JPX日経400ETF購入対策対象に追加 | ||
2016年3月15日 | 年3兆3,000億円増*3 | 設備・人材投資ETF追加(年3,000億円) | |
2016年7月29日 | 年6兆円増*4 | ||
2016年9月21日 | 年3兆円→日経225、TOPIX、JPX日経400ETF 時価総額比例 年2.7兆円→TOPIX ETF時価総額比例 ※設備・人材投資ETFの買い入れ(年3,000億円)は変更なし |
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2018年8月6日 | 年1.5兆円→日経225、TOPIX、JPX日経400 ETF時価総額比例 年4.2兆円→TOPIX ETF時価総額比例 ※設備・人材投資ETFの買い入れ(年3,000億円)は変更なし |
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2020年3月16日 | 新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化 年間約12兆円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う |
||
2021年3月19日 | 年6兆円増は廃止 上限年12兆円を維持*5 |
約12兆円の年間増加ペースの上限を、感染症終息後も継続することとし、必要に応じて、買い入れを行う 購入対象はTOPIXに限定 |
|
2024年3月19日 | 買入終了 |
*1 前年に対して年間1兆円に相当するペースで増額
*2 前年に対して年間3兆円に相当するペースで増額
*3 前年に対して年間3兆3,000億円に相当するペースで増額
*4 前年に対して年間6兆円に相当するペースで増額
*5 2021年4月1日実施
※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
2010年10月、金融政策決定会合でETFの買い入れ方針を公表
日本銀行のETF買い入れ制度は、2010年10月に、金融政策決定会合において決定された包括的金融緩和政策のひとつとして公表され、同年12月15日から買い入れがスタートしています。
参考:日本銀行「包括的な金融緩和政策」の実施について(2010年10月5日)(PDF)
※日本銀行のサイトに移動します
2016年7月、日銀の追加緩和により、買い入れ枠が年間6兆円まで増額
ETFの年間買い入れ枠は年々増額され、2016年7月には年間6兆円となりました。
2018年8月、ETF の銘柄別の買い入れ額を見直し
ETFの銘柄別の買い入れ額が見直され、TOPIX連動型への配分金額が増額されました。
年間買い入れ額の配分 | ||
---|---|---|
日経225、TOPIX、JPX日経400 ETF | 年1.5兆円 | 時価総額比例 |
TOPIX ETF | 年4.2兆円 | 時価総額比例 |
設備・人材投資 ETF | 年3,000億円 |
参考:日本銀行 今後のETFの買入れの運営について(2018年7月31日)(PDF)
※日本銀行のサイトに移動します
2020年3月16日、新たに公表された日銀のETF買い入れの概要
2020年3月16日、日銀は「新型感染症拡大の対応を踏まえた金融緩和の強化について」と題し、混乱する金融市場の安定を図るため、金融緩和を強化することを決定しました。 ETFの買い入れは、この金融緩和の強化策の一環で決定されたもので、「ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買い入れを行う」としています。
この金融緩和の強化も、金融市場の混乱により物価や金融システムに大きな影響を及ぼしかねないと判断したことから決定されたと言えます。
参考:日本銀行 新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化について(2020年3月16日)
※日本銀行のサイトに移動します
2021年3月19日、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検後の日銀のETF買い入れの概要
2021年3月19日、日銀は「より効果的で持続的な金融緩和について」と題して、持続的な形で金融緩和を継続していくとともに機動的に対応することを決定し、「ETFおよびJ-REITについて、新型コロナウイルス感染症の影響への対応のための臨時措置として決定したそれぞれ約12兆円および1,800億円の年間増加ペースの上限を、感染症収束後も継続することとし、必要に応じて、買入れを行う。」としました。また、指数の構成銘柄が最も多いTOPIXに連動するもののみを買い入れることとしました。
参考:日本銀行 より効果的で持続的な金融緩和について(2021年3月19日)
※日本銀行のサイトに移動します
なお、銘柄別の買い入れ額の見直しは、2021年4月1日から実施されました。
参考:日本銀行 ETFの買入れの運営について(2021年3月23日)(PDF)
※日本銀行のサイトに移動します
2024年3月19日、ETF買い入れの終了
日銀は長らく掲げてきた2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断し、2024年3月19日に金融政策の見直しの一環でETFおよびJ-REITの新規の買入れを終了することを公表しました。
参考:日本銀行 金融政策の枠組みの見直しについて(2024年3月19日)(PDF)
※日本銀行のサイトに移動します
日本銀行のETF買い入れ額の推移(年間)
※2024年は4月末まで。
※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。
日銀が買い入れていたETFの銘柄は?
日銀の追加金融緩和の対象となるのは、
①東証に上場する企業のみを組み入れた指数に連動する銘柄
②東証に上場する不動産投資法人(REIT)を組み入れた銘柄
と定められており、①がETFのことを指しています。
買い入れ対象ETFの連動対象指数は、日銀が公表した基本要綱に明記され、以下となっていました。
東証株価指数(TOPIX)
なお、買い入れ対象ETFの連動対象指数は、日銀によるETFの買い入れスタート時から2021年3月19日まで「日経平均株価」、また過去には「JPX日経インデックス400」や「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」も含まれていました。
参考:
日本銀行 指数連動型上場投資信託受益権等買入等基本要領
日本銀行 「貸出促進付利制度基本要領」の制定等について(2021年3月19日)(PDF)
>別紙5「指数連動型上場投資信託受益権等買入等基本要領」中一部改正
日本銀行 ETFの買入れの運営について(2021年3月23日)(PDF)
※日本銀行のサイトに移動します
個人でも日銀が買い入れていたETFを購入できる?
日銀は買い入れ対象を「国内の金融商品取引所(以下「金融商品取引所」という。)に上場されている指数連動型上場投資信託受益権等」としていました。つまり、日銀が買い入れていたETFはすべて東京証券取引所に上場している銘柄なので、個人でも購入することが可能です。
金融政策の一端を担う商品だったETFですが、個人の資産運用のためのツールとしても広く利用されています。ETFは、分散投資ができるだけでなく、比較的少額から購入が可能ですので、個人の資産運用にもご活用いただける金融商品です。
日銀が買い入れ対象としていた株価指数に連動する日興アセットのETF
日興アセットには、先ほどご紹介した日銀の買い入れ対象であった指数(東証株価指数(TOPIX)、日経平均株価、JPX日経インデックス400)に連動するETF、設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETFを合わせて計5銘柄あります(2024年4月30日時点)。
東証株価指数(TOPIX)に連動するETF
1308 - 上場インデックスファンドTOPIX (愛称:上場TOPIX)
日経平均株価に連動するETF
1330 - 上場インデックスファンド225(愛称:上場225)
1578 - 上場インデックスファンド日経225(ミニ)(愛称:上場日経225(ミニ))
JPX日経インデックス400に連動するETF
1592 - 上場インデックスファンドJPX日経インデックス400 (愛称:上場JPX日経400)
設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF
1481 - 上場インデックスファンド日本経済貢献株 (愛称:上場日本経済貢献)
「日銀のETF買い入れ」に関する参考記事:
■ETFセンター長今井のコラム もっと知りたいETF
No.28 ETFの本格的普及が期待される2013年とその課題(2013年5月7日)
No.30 日本銀行からETFの投資手法を学ぶ(2013年6月26日)
No.41 日銀のETF買付から学ぶ株式市場とETF投資(1)~市場の歪みの検証からわかったこと(2016年11月17日)
No.42 日銀のETF買付から学ぶ株式市場とETF投資(2)~個別株の価格形成の歪みの検証を通じて(2016年11月17日)
No.48 日銀のETFの貸出によりETFの流動性改善が期待されます(2019年5月10日)
■ETFの魅力をお伝えする日興アセットのETF専門サイト「WE LOVE JoJo ETF」
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