先日、当社の投資信託の営業担当が、「最近、一段とETFの乖離が広がっている」と取引先の証券会社の方に言われたとのことです。少し前にも、私も証券会社の方から「ETFには乖離がある」ということを言われました。先日も今回もすぐに乖離しているのかチェックしてみましたが、そのような事実が見当たりません。何をもって乖離しているといわれているのかわからなかったのですが、ようやくこれはETFに対する誤解のひとつではないかと気づきました。今回はこの「ETFの乖離について」ご説明しようと思います。

ETFの乖離

「ETFの乖離」、「ETFの市場価格の乖離」と聞くと、ETF業務に携わる人はすぐにディスカウント・プレミアム分析を行ないます。これは、特定日のETFの終値と基準価額(一口あたりの純資産価格)とを比較し、ETFの値段(市場価格)が基準価額(一口あたりの純資産価格)より高ければプレミアム、安ければディスカウントと呼びます。また取引時間中の価格と推定純資産価格(インディカティブNAV)を比較することもあります。推定純資産価格(インディカティブNAV)はETFが保有している株式等の現在値を使って評価しなおした推定の基準価額(一口あたりの純資産価格)になります。

日本の代表的な株式指数である日経平均株価に連動するETFの2013年5月31日のディスカウント・プレミアム(終値と基準価額(一口あたりの純資産価格))状況を、例にとって見てみると次の表のようになります。

日経平均株価のETFのディスカウント・プレミアム状況(2013年5月31日現在)
  終値
(A)
基準価額
(B)
ディスカウント・プレミアム状況
(A)/(B)-1
日興アセット(1330:上場225 14,200 14,182 0.13%
三菱UFJ投信(1346) 14,090 14,115 -0.18%
野村アセット(1321) 14,100 14,130 -0.21%
大和投信(1320) 14,070 14,120 -0.35%

※基準価額は1口あたり純資産価格で統一


乖離はあるにしても、そんなに大きなものではありません。特に終値の比較は、ETFの終値が引け時間から離れたところでついた値段が終値になっていたりして振れが大きく出やすいこともあります。乖離の指摘を受ける度に確認をしていますが、あまり乖離している状態でもないので困っていたところ、ふともしかして「指数の値と市場価格がずれている」ということではないかと気づきました。ETF業務に携わる人間にとっては、この事象はあたりまえのことなのですが、確かに一般投資家の方にはわかりづらいことだろうと思いました。まさに専門バカというのはこのことで、いつの間にか一般投資家目線から乖離していたことに反省しきりです。

指数の値と取引価格がずれている

前出のETFと日経平均株価の2013年5月31日の終値を見てみましょう。

日経平均株価と市場終値との差(2013年5月31日現在)
  終値 指数との差
日経平均株価 13,775 -- --
日興アセット(1330:上場225 14,200 425 3.09%
野村アセット(1321) 14,100 325 2.29%
三菱UFJ投信(1346) 14,090 315 2.24%
大和投信(1320) 14,070 295 2.10%

※指数の小数点以下は四捨五入


2~3%とかなりずれているではありませんか。これらのETFは、設定時に日経平均の動きと連動させるように組成したETFですが、主に2つの運用以外の要因で、指数の値とETFの市場価格とのずれが生じています。

要因1-株式の配当落ち

まず、日経平均という指数に目を向けると、配当を含まない価格指数であることがわかります。日経平均に採用されている株式の多くが3月決算銘柄で、3月末および9月末に配当の権利確定日があります。3月末近辺で、それらの株式は配当落ちがあり、配当見込み額分株価が下がります。その結果、指数も下がることになります。一方、ETFは、その保有している株式の配当落ちにより基準価額が下がりますが、受け取ることができる配当見込み額を未収配当金として計上して、その基準価額の下落分を埋めることになります。つまり株式の権利落ちによって、日経平均は下落しますが、ETFの基準価額(一口あたりの純資産価格)は下落しないのです。大雑把な推計ですが、日経平均の配当利回りが2%程度だとすると、この5月末時点では1%(2%の半期分)程度が株式の権利落ちの要因でETFは上振れしていると考えられます。しかしながら、これらETFの7月上旬の決算をむかえた時に、受け取り配当金を分配しますのでこの上振れ分は解消に向かうことになります。
上記を理解しやすくするため、株価が変動せず、また信託報酬等のコストもかからないと仮定すると、以下のような指数値と基準価額(一口あたりの純資産価格)の推移になります。

配当に関係した時期の指数値とETFの基準価額の推移

要因2-設定・交換(解約)※とETFの決算・分配

本コラムのNo.2でご説明したように、ETFが分配原資のある状態で設定が入ると、決算時の1口あたりの分配金が減少し、分配金の払い出し後基準価額(一口あたりの純資産価格)が連動対象指数値までに下がらないことが起き、逆に交換(解約)が入ると、決算時の1口あたりの分配金が増加し、基準価額(一口あたりの純資産価格)が連動対象指数値以上に下がる現象が起きます。

※ETFの設定・交換(解約)について: Step.1 ETFの仕組み

2013年5月13日の朝、ETF業界に衝撃が走りました。5月10日にあるTOPIXのETFに4,360億円あまりの巨額の設定があったのが明らかになりました。同業として心の底からうらやましく思ったのはともかくとして、当ETFは年1回の決算分配なので、分配原資をためきったタイミングで、残高が倍になる設定が入ったことにより、7月の決算までに大きな交換(解約)が無ければ、決算・分配時の1口あたりの分配金が3月末時点で想定していた額の半分近くにまで減少し、基準価額(一口あたりの純資産価格)があまり下がらない現象が起こることになります。これは、「収益分配金の希薄化」と呼ばれ、下記に図で表してみました。

希薄化例

「コラム No.2 分配型ETFは悪いファンド? 分配変動(希薄化と濃縮化)のコントロール」より

ETFの市場取引価格は、基本的には基準価額(一口あたりの純資産価格)に収斂するように売買されています(詳しくは「需給による市場価格のずれ」「コラムNo.6」)。なぜ値段がずれているのか不思議に思われていたかもしれませんが、今回ご説明したようなテクニカルな理由によるもので、決して運用の失敗などではありません。投資家の皆さまにも有利不利とかというものでないことをご理解いただき、ETF、特に日興アセットマネジメントのETF 上場インデックスファンドシリーズをご活用いただければ幸いです。