ETF投資の気をつけるべき8のリスク

ETF投資の気をつけるべき8のリスク

  • 公開日:2023年2月15日

今井 幸英

筆者 今井 幸英(いまい こうえい)
ETFセンター・シニア・アドバイザー

1985年4月 株式会社日本興業銀行入社。みずほフィナンシャルグループ(みずほ総合研究所、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現 アセットマネジメントOne))を経て、2006年12月 日興アセットマネジメント株式会社に入社、2008年8月よりETFビジネスに従事。2020年11月から現職。2012年、2013年 武蔵大学経済学部 非常勤講師、2014年 学習院大学経済学部 非常勤講師。長い運用商品開発の経験を活かし、ETFの開発、ETFビジネスの推進活動を行っている。

投資理論の世界では損失も収益もまとめて読めないところをリスクと言います。
ETFは投資信託の一種で、預金とは違い価格変動があり元本保証のあるものではありません。
よってETFへの投資が損失となるリスクがある一方、逆に期待した以上の収益が得られることもあります。ETF投資の代表的なリスクについてご説明いたします。

リスク

1. 価格変動リスク

ETFは株式や債券など価格変動のある資産で運用されるため価格変動があります。株式は日々、政治・経済諸情勢を織り込みながら変動しているのはお馴染みではないかと思いますが、債券(金利の世界)も同様です。基本、ETFの価格変動は保有している株式や債券の価格変動の保有比率に応じた加重平均になります。
たとえば、A株とB株を50%ずつ保有するETFがあったとします。投資開始翌日にA株は+10%上昇し、B株は-5%下落したとすると、ETFは5%の上昇となります。

ETFの価格変動は保有している株式や債券の価格変動の保有比率に応じた加重平均になります。

*上図はイメージです。

このように分散投資されているETFの価格変動は保有している個別銘柄の加重平均になります。
実際のETFの値動きは投資対象資産(連動対象指数)によって大きく違います。



次のグラフはETFが連動対象としている指数のリターンとリスクを見たものです。ETFによってリスクとリターンも異なります。

赤丸で囲ったところに米国のテック企業等を中心とした17.NASDAQ100(為替ヘッジなし)の指数(インデックス)があります。
過去3年の平均リターンが18%、リスクが32%となっていますが、この意味は、統計的に、通常(68%くらいの確率)でリターンが50%(18%+32%)から-14%(18%-32%)の範囲になるということです。

指数リスク・リターン分析(3年) 2つの時点の変化率の大小 価格のブレの大小

※2022年12月30日時点

※指数の正式名称については「指数の正式名称一覧」をご覧ください。
※すべて指数(配当込)をもとに算出。 リターン、リスクはともに年率換算値。
※海外株・債券指数はすべて円換算したもの。
※ 3. 日経平均レバレッジ・インデックス / リスク:43.53% 、リターン:1.51%

この価格変動特性を考えて投資配分額を考え、値動きが相反するようなETFを組みあわせて投資するのが効果的です。
人の信条として、価格が上昇すると買いたくなり、逆に下落すると売りたくなると言われます。そうした時こそ、この投資の目的は、運用期間はといったことを思い起こして冷静さを取り戻すようにしてはいかがでしょうか。

2. 流動性リスク

市場でのETFの取引参加者が少なく売買が極端に少ない場合、希望した値段や数量で売買できないことがあります。例えば、ETFの価値からみて期待できる価格で取引できない、乖離した価格で約定してしまう、また、期待した取引量が売買できないなどです。

たとえば、50円の価値があるA株と50円の価値のあるB株を保有しているETFの価値は100円になります。そこで、100円で10口売買したいとします。しかし、板情報(気配値)(取引所に発注されている銘柄・値段ごとの売買注文を集約したもの)を見てみると、以下のように105円に1口の売り注文、95円に2口の買い注文しか出ていません。このような中で10口の買いたい場合、本来の価値から5%も高いところでしか売買できず、また、1口しか売買することができません。


A株とB株を保有しているETFの価値

*上図はイメージです。

板情報(気配値)

※表はイメージです。


取引所やETFの運用会社は、マーケットメイカーが市場に売り買いの注文を出すとインセンティブがつく仕組みを導入し、ETFの取引に呼び込んで当リスクの低減を図っています。しかし、ETFの決算日前の数日間やETFの投資対象市場が休日にあたるなどのETFの設定・解約が出来ないタイミングではマーケットメイカーが取引に参加し難いため流動性が低下することがあります。
また、流動性の低い投資対象資産に投資するETF、例えば新興国の株式や債券、小型株に投資するETFは、概ねETF自体の流動性も低くなります。
ETFの流動性が低い場合、成行注文でいくらでもいいから買う(売る)といった発注をすると、高すぎる(安すぎる)値段で約定してしまう可能性があり、この流動性リスクが大きく顕在化することがあります。その場合、口数だけでなく値段を決めて発注する指値注文をすることで回避するという方法もあります。たとえば前の例では、「101円10口買い」という注文です。買いたいタイミングですぐには買うことができないかもしれません。しかし、この注文が売買注文状況にさらされることで、マーケットメイカーや市場参加者は市場の動きを確認しており、上記のような100円の資産価値のあるETFの場合、「101円は本来価値より高い」といったように判断され、売り手が現れる可能性があります。

3. 価格乖離(かいり)リスク

価格乖離リスクは流動性リスクに類似のリスクですが、いくつかのパターンがあります。

ETFの価値と市場価格との乖離

1つ目は、ETFの市場価格はあくまでも需要と供給が釣り合った価格なので、ETFの価値から乖離したところで価格がつく(売買が成立する)ことがあります。
前出の50円の価値があるA株と50円の価値のあるB株を保有しているETFの価値は100円になりますが、A株に好材料があって70円の価値があってもいいような場合、20円高い値段(120円)でこのETFを買ってもいいと思う投資家はどんどん買い進んで、本来価値に見える100円から乖離して120円となることがあり得ます。

ETFと連動対象指数の乖離

2つ目は、ETFと連動対象の指数の動きと違う(違うように見える)ことです。
例えば、指数とETFの価格が午後2時にそれぞれ100円で、午後3時の引けは指数が105円の一方、ETFの引け値が100円となっていたような場合です。
実は、ETFの最終売買が午後2時でそれ以降売買が成立していなかったので引け値が100円となってしまったようなことがあります。
さらに、後段の運用リスクに近いのですが、連動対象指数の組入銘柄、組入比率に近くなるようにETFの運用を行うのですが、完全に同じというわけにいかないことから乖離が発生することもあります。


以上のように価格乖離リスクは、冷静にETFを観察することが必要かもしれません。

4. 為替リスク

海外の資産に投資する「外貨建て資産」については、一般に外国為替相場が当該資産の通貨に対して円高になった場合には、ETFの資産価値の下落要因になります。
東証に上場している国内籍ETFも海外の株式・債券といった外貨建て資産に投資するETFが増えてきました。海外市場に上場している外国籍ETFも外貨建て資産にあたりますので同じリスクがあります。

為替リスクに対しては、通貨が分散されたETFや為替変動の影響を抑える「為替ヘッジあり」のETFが有効です。 なお、「為替ヘッジあり」のETFに関しては、日本より高金利国に投資する場合は金利差等が「ヘッジコスト」としてかかり、ETFの資産価値の下落要因になります。

ご参考:【ETF用語集】為替ヘッジ

5. 発行体リスク・信用リスク

ETFが投資する株式や債券(仕組債を含む)、デリバティブ(スワップ)などの発行体に倒産、債務不履行などの事象が起きると、その価格下落(ゼロの可能性も)によりETFの資産価値の大きな下落要因になります。 当リスクの対処方法としては分散投資が有効です。投資するETFのポートフォリオで組入比率の高いものを確認しておくことも有効です。

6. カントリーリスク

投資対象国における非常事態など(金融危機、財政上の理由による国自体のデフォルト、重大な政策変更や資産凍結を含む規制の導入、自然災害、クーデターや重大な政治体制の変更、戦争など)を含む市況動向や資金動向などによっては、ETFの資産価値の大きな下落要因になります。
当リスクの対処方法としては分散投資が有効ですが、単一国投資のETFについては難しいところがあります。常日頃の国内外のニュースを見ながら投資対象ETFの情況に気を配ることが対処の一歩かもしれません。

7. 上場廃止リスク

ETFの上場基準ではETFの信託期間は無期限とされています。しかし、ETFが上場廃止基準に抵触した場合、ETFが上場廃止となり信託期間が終了(償還)するリスクがあります。日本のETFは上場廃止になると償還手続きに入ることが定められています。

ETFが上場廃止になる場合は、ETFの運用会社が運用会社としての資格を失うなど取引所の定める上場廃止基準に抵触した場合です。
また、ETFの純資産総額が十分でないと目指す運用が出来ない、また、コストがかさみ過ぎて投資家の利益にならない場合、投資家の意思確認手続きを経てETFの運用期間を「無期限」から「有期限」にして上場廃止基準に抵触させて上場廃止、償還となることがあります。多くの日本のETFの上場廃止はこれらの理由によるものです。

上場廃止になった場合はどうなるのか

ETFが上場廃止となった場合、投資家は運用を継続したいと考えていても運用が終了されてしまいます。なお、上場廃止・償還といっても株式の破綻などによる上場廃止と違って、ETFの価値がゼロになるということではありません。純資産総額が少なくなって市場取引が低調になってきたETFを保有している、または、投資を検討されている場合、ETFの約款や目論見書の「繰上償還」の項目に特定の純資産総額や受益権の口数を下回ると償還できるといった条項が記載されていますので事前にご確認いただくのがよろしいかもしれません。

8. 運用リスク

運用会社の運用力によっては投資成果を棄損するリスクがあります。パッシブ(インデックス)運用のETFにあたってはアクティブ運用のものと比較すると小さいリスクではありますが、連動対象指数の構成銘柄の入れ替えの時に売買・入替コストが掛かりすぎてしまうこと等があります。
このリスクを避けるには運用実績のある運用会社のETFを選ぶということかと思います。

リスクへの対処方法

リスクを知る

リターンはそのままにリスクだけヘッジ(中立化、回避)できれば良いのですが、実際にはそうはいきません。結局、リスクヘッジをすると得られるリターンもなくなってしまうのです。為替ヘッジでも触れた「ヘッジコスト」のように、ヘッジをするためにコストが掛かることがあります。そのため、各リスクの説明にそのリスクへの基本的な対処方法を書きましたが、リスクを知って許容できる範囲で投資するということが肝要かと思います。

ドルコスト平均法とバリュー平均法

上記の各リスクのなかで、投資家が最も大きくさらされるリスクは1. 価格変動リスクです。このリスクの対処方法で時間分散を行うドルコスト平均法とバリュー平均法をご紹介したいと思います。両手法共に1. 価格変動リスクに対処する方法として知られています。

【ドルコスト平均法】

ドルコスト平均法は、一定金額を定期的に投資する積立投資の手法ひとつで、ドルコスト平均法はETFの価格が高い時は少ない口数を、安い時は多くの口数を買い付けて買単価を分散しつつ平均買単価を引き下げる手法です。
以下の事例では、毎月10万円の投資を5年に渡って分散して累計で600万円投資すると仮定しています。

【バリュー平均法】

バリュー平均法は、毎月の積立目標資産額に向かって、資産価格が高くなって積立目標資産額を超過した時は売却を行い、逆に安い時は積立目標資産額になるようにより多くを買い付け平均買単価をより積極的に引き下げる手法です。毎月一定額買い付けるドルコスト平均法と比較すると、毎月の積立目標資産額と現在の積立資産額を比べて売り買いの判断をしなければならないので管理に手間がかかります。
以下の事例では、600万円を積立目標資産額とし、毎月10万円ずつ増える積立目標資産額(10万円、20万円・・・600万円)を超えたときはその積立目標資産額まで売却し、下回った場合はその積立目標資産額になるように買い付け、5年に渡って投資したと仮定しています。

次の表は、日興アセットのETF「上場インデックスファンド日経225(ミニ)(1578)」の2017年12月1日から2022年11月30日までの5年間で、両手法によって毎月月初営業日の1口当たりの純資産額で売買したと仮定したものです。

日興アセットのETF 上場日経225(ミニ)(1578)の2012年12月1日から2022年11月30日までの5年間で、両手法によって毎月月初営業日の1口当たりの純資産額でん売買したと仮定したもの

*売買手数料は掛からないものとし、信託報酬は考慮したものです。収益率は課税後の分配金を受け取ったものとして計算しています。
*グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。



以上、ETF投資の気をつけるべき8のリスクについてご説明させていただきました。当初はリスクが怖いと感じる人も多くいらっしゃると思います。しかし、リスクを怖がっていると、なかなか資産形成が進みません。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とは良く言ったものです。リスクを取りすぎて虎に食べられるのも困りものですが、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ともありますように、そのリスクがどのようなものか正確に把握したうえで怖れず、リスクを適正に取って、コントロールしつつ資産形成につなげたいものです。

(以上)

指数の正式名称一覧

※2022年12月30日時点

[今井監修]ETFのキホンシリーズ

「ETFのキホン」シリーズでは投資家の皆様にETFを良く知っていただいて、より良く活用していただきたいとの思いで書かせていただいています。