ETFの運用方法について

ETFの運用方法について

  • 公開日:2023年6月12日

今井 幸英

筆者 今井 幸英(いまい こうえい)
ETFセンター・シニア・アドバイザー

1985年4月 株式会社日本興業銀行入社。みずほフィナンシャルグループ(みずほ総合研究所、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現 アセットマネジメントOne))を経て、2006年12月 日興アセットマネジメント株式会社に入社、2008年8月よりETFビジネスに従事。2020年11月から現職。2012年、2013年 武蔵大学経済学部 非常勤講師、2014年 学習院大学経済学部 非常勤講師。長い運用商品開発の経験を活かし、ETFの開発、ETFビジネスの推進活動を行っている。

おすすめの運用方法は?どう考えるべきか?
資産配分はどうあるべきかということでもあり、本当に難しい課題だと思います。
ETFの選び方」の記事でも、「ある意味、正解がない、特に万人に向けての正解がない資産運用の課題で、原理原則に立ち返って、個々人で考えてみる必要がある」とお話しさせていただきましたが、ETFによる運用をどのように行ったら良いのかという問いに対しても同じことが言えるのではないかと思います。
資産形成をするのは今あるお金を増やすことにつきるのですが、そのお金が何のために必要なのかを改めて整理することが大事かと思います。それは今の自分の状況を確認し、これから起こり得ることを想像して、それに対処するためにどのようにするべきなのか。この課題に関しては投資家自身が自問自答するしかありません。ファイナンシャル・プランナーという人たちもいて手助けをしてくれますが、やはり最後は投資家自身が決めなければならないことなのです。資産運用は自分を再確認することではないかと思います。

運用開始時点で考えるETFの運用方法

「始め良ければ終わり良し」といいますので、さあどうしようか思いあぐねてしまう方も多いかもしれません。

  • 現状、どのくらいの資産があるのか
  • 毎月、どのくらい収入があって、手取り収入がどの程度か
  • 月々の生活費がどのくらいなのか

といった事項を確認し、資産運用を行う目的は何かを考えることが避けられません。そして、それらを何かに書き留めておくことを強くおすすめします。そこから資産運用の検討が始まります。

Step.1 現状、どのくらいの資産があるのか Step.2 毎月、どのくらい収入があって、手取り収入がどの程度か Step.3 月々の生活費がどのくらいなのか

まずは月収(収入、手取り)に対して月に生活費がどの程度かかっているのかは最低限把握が必要です。倹約を勧めるのではありませんが、冗費(無駄な費用)が無いか確認し、手取り月収から生活費を差引いた残りを金融資産として考えることができます。

月収(手取り) 月当たり生活費 金融資産

また、資産総額に対して月にかかる生活費の何か月分かを預金として区分した以外の部分が運用可能資金にあたると思います。ちなみに生活費の何か月分を預金として区分しておいたら良いのかということについては個々人の生活の安定性やリスク許容度によります。職を失ない収入が途絶えるといったストレスがかかる状況をあえて想像してみて、ストレスを強く感じる場合は長めに預金としてストックした方が良いかと思います。

金融資産総額 現金、預金として区分した金額 運用可能資金

アセットアロケーション(資産配分)を考える

次に考えるべきはアセットアロケーション、資産配分ですが、自分の資産の振り向け先をどのようにするのかということです。
資産の振り向け先によって資産運用の結果、パフォーマンスが大きく違ってくることは容易に想像がつくかと思います。そのため収益が上がる資産に資金を振り向けたくなるのですが、収益があがる資産がどれかを予測することは極めて困難です。ただ、時間の経過で収益が期待できる資産(株式、債券、不動産投資信託)に投資しているETFを選択し、各ETFの特徴、何に投資しているのか把握して、それぞれのETFにどんな役割(リターン)を期待するのかをはっきり位置づけておくのが好ましいと思います。そして資産運用の目的をはっきりと認識しておくことが必要です。
ただし、それぞれのETFにどんな役割(リターン)を期待するのかをはっきり位置づけておいても、その期待通りにはならないことが多くあります。そのためうまく行かなかった場合、どうなるのか、また、資産の振り向け先を分散、配分するということが必要になります。
では、具体的にどのようにしたら良いのかというと、正直、正解は無い世界ですが、その資産の振り向け先が投資家自身で納得できるものでないと続かないので自分自身の考える運用目標と整合性があるものかは確認してください。やはり文字に落としておくことをおすすめします。

世界最大の機関投資家、GPIFの運用

そこで、一つの参考としたいのが、世界最大の機関投資家、GPIF(Government Pension Investment Fund、年金積立金管理運用独立行政法人)の運用目標と基本ポートフォリオの考え方です。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
年金積立金の運用目標
基本ポートフォリオの考え方

※年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のウェブサイトに移動します

GPIFはこれまで現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いなどに充てられなかったお金を年金積立金として預かり、将来世代のために運用して増やす機関です。GPIFへの年金保険料が賃金上昇率に連動することから、GPIFの運用目標は賃金上昇率+α(2023年5月末時点は1.7%)とし、それを最小限のリスクで実現する現在(2020年4月1日からの5年間)の基本ポートフォリオを、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式、それぞれ25%としています。
個人投資家の立場では資産が目減りしない運用を目指したいことから目標は物価上昇率+αと置きたいのですが、賃金上昇率と物価上昇率は必ずしも一致しません。ただ、大きな流れで考えれば賃金上昇率と物価上昇率は連動すると考えれば、GPIFの運用基本ポートフォリオは個人投資家の参考になるかもしれません。
多くの日本の個人投資家の資産状況は、日本銀行の資金循環統計でも良く知られているように金融資産の多くが現金・預金と保険・年金等になっています。多くの個人が管理・把握しているのが現金・預金ですが、GPIFの運用基本ポートフォリオの国内債券部分が、所謂、安定運用資産になるかと思いますので、個人投資家の場合は現金・預金を安定運用資産に位置づけて、外国債券、国内株式、外国株式に資産を振り向けることにすると思います。資産配分は、現金・預金、外国債券、国内株式、外国株式に25%ずつ配分する形になります。ただし、急に何か事が起こって、急遽、お金が必要になることもありますので、現金・預金の金額が、預金として区分しておきたい金額(月当たりの生活費の数か月分:数か月は投資家の状況で変わる)を超えていない場合は総資産から区分しておきたい金額を指し引いた残りの資産を外国債券、国内株式、外国株式に均等に振り向けるようにするということになります。

なお、この資産配分は、あくまでも一例であることをご理解ください。

ご参考 GPIFの運用基本ポートフォリオ

ポートフォリオを作成する

大方の投資家のポートフォリオ作成は、現金・預金から外国債券、国内株式、外国株式の各ETFに投資する形になるかと思います。現在は銀行預金から証券口座の振替はすぐに行えるところが多いと思いますが、ETFを買いたいにもかかわらず、証券口座への資金の移動ができずに買えないこともあるので証券口座の資金残高は良く見ておきたいものです。証券口座に多めにお金を入れてもMRFのような換金容易な預金に近い性質の投資信託で受け入れてくれます。運用リスクはちゃんと取った方が良いと考える場合は、そこから一気に運用資産の全体の比率が現金・預金、外国債券、国内株式、外国株式に25%ずつになるように各ETFを買い付けるというのもあるかと思います。ただ、価格変動資産への投資になれていないと、その変動が気になってしまうこともあろうかと思います。「ETFは積立投資ができる?」の記事でもご紹介したように時間分散を図って徐々にポートフォリオを組成するのも有効ではないかと思います。

運用開始時ポートフォリオ:資産100

購入後のメンテナンス方法

ETFを購入してポートフォリオが組み上がったら、しばらくは、ほったらかしでもいいのかもしれません。あまりポートフォリオの状況に関心を寄せすぎると、運用が上手くいっているとさらにお金をつぎ込んでしまいたい、逆に上手くいっていないとETFを売却してしまいたくなるかもしれません。月単位といったように投資家ご自身にとって程よい間隔を空けて、ポートフォリオを見てみましょう。このときに大事なのはETFごとの含み損益を見るのではなくて、現金・預金、外国債券、国内株式、外国株式の各カテゴリーを時価総額で見ることです。各カテゴリーを25%ずつとしてので、その後の時価変動でこの比率がどの程度変化しているか、バランスが大きく崩れていないかを見ることが大事です。

リバランス(資産の再配分)

当初決定し、組み上げたポートフォリオのバランスが崩れてきていると思われるときは、追加の運用資金が無い場合は、組入比率が高くなっているカテゴリーのETFを売却して、組入比率が低くなっているETFを買い付けます。あまり厳格に調整を行うと必要以上に売買コストがかさむことが考えられます。大まかな比率の調整で十分だと思います。
一方、追加の運用資金がある場合は、組入比率が低くなっているETFを買い付け、全体のバランスが取れるようにするのが良いと思われます。

運用開始時ポートフォリオ:資産100、運用中のポートフォリオ:資産110リバランス前、運用中のポートフォリオ:資産110リバランス後

リアロケーション(資産配分の見直し)

個人の人生にはいろいろな転機があります。就職、昇格・昇給、結婚、出産、子供の就学、卒業、定年退職などです。それに合わせて大きな出費があったりして運用に回せる資産額も増減し、月々の収入も変化します。その変化に合わせて資産配分、運用リスクを増やしたり、減らしたりする必要が出て、基本ポートフォリオを見直すことがリアロケーションです。
尚、市場環境の変化に伴い資産配分の見直しを行うことをリクリエーション、投資家の人生ステージの変化を踏まえて投資配分の見直しを行うことをリプロファイリングと表現している例もあるようですが、一般にはアセットアロケーション(資産配分)の見直しと言っています。



おすすめの運用方法は?どう考えるべきか?ということでアセットアロケーション、資産配分について考えてみました。ただし、これが最適、正解というものではありません。こんな考え方もあるなという程度に捉えていただければと思います。

(以上)

[今井監修]ETFのキホンシリーズ

「ETFのキホン」シリーズでは投資家の皆様にETFを良く知っていただいて、より良く活用していただきたいとの思いで書かせていただいています。