オルタナティブ運用のETFとは?

オルタナティブ運用のETFとは?

  • 公開日:2023年8月29日

今井 幸英

筆者 今井 幸英(いまい こうえい)
ETFセンター・シニア・アドバイザー

1985年4月 株式会社日本興業銀行入社。みずほフィナンシャルグループ(みずほ総合研究所、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現 アセットマネジメントOne))を経て、2006年12月 日興アセットマネジメント株式会社に入社、2008年8月よりETFビジネスに従事。2020年11月から現職。2012年、2013年 武蔵大学経済学部 非常勤講師、2014年 学習院大学経済学部 非常勤講師。長い運用商品開発の経験を活かし、ETFの開発、ETFビジネスの推進活動を行っている。

オルタナティブ(alternative)とは「代替的」「(主流な方法に代わる)新たなもの」などの意味で用いられます。オルタナティブ運用とは、上場株式や債券といった伝統的資産と呼ばれるもの以外の新しい投資対象や一般的な投資手法である中長期保有以外の投資手法で行う運用を言います。上場株式や債券といった昔から一般的な投資対象とされてきたものを伝統的資産と言い、伝統的資産による運用や運用手法を伝統的資産運用と言いますが、オルタナティブ運用は伝統的資産の運用の範疇外のものを指します。

投資対象 一般的な投資対象(伝統的資産)、オルタナティブ(新しい投資対象)、運用手法 一般的な投資手法 オルタナティブ(新しい投資手法)

今回は、オルタナティブ運用の投資対象や投資手法のETFについて整理したいと思います。

オルタナティブ運用とは

新しい投資対象や投資手法で行う運用です。一般に、オルタナティブ運用にあたる新しい投資対象は、非上場株式、不動産、コモディティ(金、石油等)を指します。株式・債券先物等のデリバティブ、非上場ファンド、ETFも上場株式や債券以外のものですが、中身や価格変動性の性質が上場株式や債券でありオルタナティブ運用とまでは捉えないように思われます。

スマートベータとREITについて

ちなみにスマートベータというものがあります。これは伝統的なインデックス(S&P 500など)に対して構成銘柄、構成比率を工夫して、その伝統的なインデックスを上回る投資成果を目指すものです。スマートベータのベータ(β)ですが、投資理論で使われる市場の変動性に対してどのくらいの変動性があるかを表す指標で、1であれば市場の価格変動性と同じという意味があります。スマートベータのスマートは賢いという意味で、スマートベータはインデックスを賢く工夫して市場平均を上回る投資成果を目指すインデックスを指します。このスマートベータインデックスに連動を目指すETFも組成されていますが、お気づきのようにこれらはオルタナティブ運用には入らず、伝統的運用の範疇に入ります。
2001年に導入された不動産投資信託(REIT)は、当時は新しい運用対象でしたが、現在は一般的な運用対象となっています。

以上を整理すると次の表のようになり、青の網掛け部分がオルタナティブ運用として整理ができるかと思います。

運用対象と運用手法

オルタナティブ運用の種類(投資対象)

投資対象は様々なものがあります。ここでは、代表的な非上場株式(プライベートエクイティ)、不動産、コモディティ(金、石油等)について触れたいと思います。他にも、破綻債権(ディストレスト)への投資など、様々なものがあります。

オルタナティブ運用の投資対象

非上場株式(プライベートエクイティ)

上場前の成長株に投資できれば、大きな投資成果が期待できることがあります。しかし、会社の財務状況などの開示がなされていない等、問題があることもあり、また、そもそもその株式を入手するのが難しく、一般的な投資対象ではありません。

不動産

不動産(土地・建物)も投資対象となります。不動産は個別性が強く、場所やその状態によって大きく価値が変わります。また、最低の投資単位が大きく、売買コストが高く、流動性も限定的です。その欠点を改善したものが不動産投資信託で、不動産に投資する会社や組合型のファンドです。不動産投資信託の会社型のものには取引所に上場しているものがあり、不動産投資信託はREIT(リート)と呼ばれています。また、先程も触れたように、不動産投資信託(リート)は、現在は一般的な投資対象になっています。

コモディティ

コモディティ(Commodity)は商品を意味し、金、銀、銅、白金、パラジウムなどの貴金属、原油、トウモロコシ、大豆などの穀物も投資対象になっています。コモディティ投資には商品そのもの(現物)に投資する場合もありますが、それらの商品価格の先物等デリバティブに投資するものもあります。

オルタナティブ運用の種類(投資手法)

通常の投資手法は投資対象を買い付けて中長期的な投資成果を待つということになりますが、その手法という切り口で整理すると、短期で売り買いを繰り返すトレーディング、空売りを行うもの(ショート)、買い付けと空売りを組み合わせたロング・ショートとして整理できるかと思います。この手法に様々な運用対象を合わせて、現在、多様な運用手法が開発、実行されています。それらをヘッジファンド運用手法とも呼ぶことがあります。

投資手法の整理

トレーディング

株式などの価格変動をとらえて、比較的短期で売り買いを繰りして収益を狙います。ある意味、薄利多売の手法になり、そのため売買回数を極端に増やす高頻度取引や元手に対して大きな取引ができる先物等のデリバティブ取引を利用してレバレッジをかけるものなど様々なスタイルがあります。どのような取引を行うのか、また、行っているのかよく理解する必要があります。

空売り(ショート)

株式などの価格変動のある投資対象は価格が上がることもあれば、下がることもあります。下がる前に投資対象を売却して下がってから買い戻せば収益になります。証券金融会社から株式を借りて売却する手法がよく知られています。

*証券金融会社とは制度信用取引の決済等のために、金融商品取引所の取引参加者等である証券会社に対して、取引所の決済機構を通じて有価証券及び資金の貸付けを行う貸借取引を行います。

ロング・ショート

価格が上がる資産(株式等)を買って、価格が下る資産(株式等)を売却すれば収益を獲得することが可能で、これを実行する運用手法です。売り(ショート)買い(ロング)組み合わせた手法で、ある意味、価格差を利用する手法で、裁定取引(アービトラージ)も含まれるかと思います。
多くのロング・ショート運用はレバレッジがかかっていることにご留意ください。たとえば、元本100があるとすると、その元本100を担保に100の空売りする株式を借りて売却(空売り)します。売却した株式の資金が入ってきますので100の株式を買い付けます。よって売りのポジション100と買いのポジション100、合計200のポジションになり、レバレッジがかかっているのがご理解いただけるかと思います。そのため、銘柄選定に失敗すると、ロングした資産が値下がりし、ショートした資産が値上がりするなど損失が大きく拡大する可能性もある運用手法です。

レバレッジ

※上図はイメージです。

✓ マーケット・ニュートラル運用

また、ロング・ショート運用の一形態でマーケット・ニュートラル運用というのがあります。個別株式の値動きは、株式の価格変動理論では市場全体の価格変動で説明できる部分と個別銘柄の付加価値の部分に分けられます。市場全体の価格変動部分は指数先物を売り建ててヘッジして、個別銘柄の付加価値の部分を狙うものです。市場の動きからは中立になるということからマーケット・ニュートラル運用と呼ばれています。マーケット・ニュートラル運用もロング・ショート運用と同じく、銘柄選定に失敗すると、ロングした資産が値下がりし、ショートした資産が値上がりするなど損失が大きく拡大する可能性もある運用手法です。

オルタナティブ運用のメリット

伝統的資産運用とは違う投資対象、投資手法ですので、伝統的資産運用に対する相関性が低く、分散投資対象として有効なことが期待できます。
次の表は2018年6月末から2023年6月末までの5年間の日本株式(TOPIX)と代表的なオルタナティブ運用の月次パフォーマンスの相関係数です。相関係数は同じ動きを1として、その数字が小さいと相関が低く、マイナスになると逆の動きをするということを表します。

日本株式(TOPIX)と代表的なオルタナティブ運用との月次パフォーマンスの相関係数(2018年6月末から2023年6月末)

※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。

相関係数が低い、また、マイナスになっていることから日本株式に対して分散投資対象として有効なのが理解できます。

オルタナティブ運用のデメリット

一番注意しないといけない点はオルタナティブ運用の投資対象は流動性が低いものがあることです。先にも触れたように、売買の成立がまれで価格がつかず価格水準が認識しづらいケースがあるため、価格が連続的ではなくて大きくジャンプするようなことが起こり得ます。価格水準が認識しづらいので表面上は価格変動特性が低いように見えてしまうのですが、気づいたときには大きく価格水準が変動していることがあるので注意が必要です。
また、レバレッジがかかっていて、実際は大きなリスクを取っていることがあります。よく運用の内容を理解することが必要ですが、その運用手法が分かり難い、また、モニタリングもし難いケースがあります。
新しい運用手法のオルタナティブ運用に関しては、運用者の運用能力や運用手法に期待をして投資することになりますが、過去の運用実績は必ずしも将来の運用成績を表すものではないことにも留意する必要があります。
オルタナティブ運用は運用の上級者向けで、かつ、リスク管理の観点からは運用資産全体のなかの限られた部分で活用するものかと思います。

オルタナティブ運用ETFの選び方

2023年7月7日現在、東京証券取引所には日本株式を対象にしたマーケット・ニュートラル運用のETFが2本、コモディティ(商品、商品指数)に投資をするETFが28本上場しています。当社は日本株式を対象にしたマーケット・ニュートラル運用のETFを1本上場させております。
コモディティに投資するETFですが、投資対象の特殊性から、商品現物、商品先物、連動対象の指標のリターンを交換するトータルリターンスワップ契約で運用するものがあって、また、取引にあたって外国証券口座が必要で税務上の扱いを確認したほうが良いものがありますのでご留意ください。
ご参考:ETFの種類と選び方

オルタナティブ運用のデメリットで触れたようなように流動性、レバレッジ、運用者のリスクがありますので、よくよく該当商品を理解する必要があります。そのうえで、なぜ投資をするのか目的をはっきりさせてください。記事「ETFの運用方法について」でも記述しましたが、投資をする場合、文字に落としておくことをおすすめします。
そして具体的な商品を選ぶときも、記事「ETFの選び方は?」の品質でもご紹介させていただいたような運用会社の運用実績や開示状況をご確認ください。

まとめ

以上、オルタナティブ運用、オルタナティブ運用ETFについて、投資対象と運用手法の2軸で整理してみました。
ETFの開発競争もあって、オルタナティブ運用ETFも徐々に増えると思います。特に伝統的運用でなかなか収益が上げ難い市場環境になると、オルタナティブ運用に注目が集まりますが、商品性が難しいものが多いと思います。あせって飛びつくようなことがないように、しっかり理解をしたうえでご活用いただければと思います。

(以上)

[今井監修]ETFのキホンシリーズ

「ETFのキホン」シリーズでは投資家の皆様にETFを良く知っていただいて、より良く活用していただきたいとの思いで書かせていただいています。