債券投資はすべき?
債券投資は意味がないと言われる理由も解説

債券投資はすべき?債券投資は意味がないと言われる理由も解説

  • 最終更新日:2024年4月17日(公開日:2023年10月31日)

今井 幸英

筆者 今井 幸英(いまい こうえい)
ETFセンター・シニア・アドバイザー

1985年4月 株式会社日本興業銀行入社。みずほフィナンシャルグループ(みずほ総合研究所、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現 アセットマネジメントOne))を経て、2006年12月 日興アセットマネジメント株式会社に入社、2008年8月よりETFビジネスに従事。2020年11月から現職。2012年、2013年 武蔵大学経済学部 非常勤講師、2014年 学習院大学経済学部 非常勤講師。長い運用商品開発の経験を活かし、ETFの開発、ETFビジネスの推進活動を行っている。

「債券は金利が上がると値段が下がる。債券は金利上昇が弱点。非常に単純化して言えば、債券は景気がいい時に損をしがちな投資資産。」等など言われます。
よって景気回復期は金利が上昇しやすいので投資する意味がないと思われることもあります。
短期運用の観点からは、このような投資判断によって債券投資を避けるということも選択肢となるかもしれません。しかしながら中長期的な運用、資産形成の観点から、債券投資は本当に意味がないのか?それとも債券に投資した方が良いのか考えてみたいと思います。

債券とは

債券とは、国、地方自治体や企業など、資金が必要な主体が発行する借用証書のようなもので、額面で発行され、その額面に対して何%かの利金を債券保有者に一定の期間毎に支払い、満期に額面金額を返金することを約束したものになります。なお、発行価格は市場金利の状況に応じて額面より高かったり、安かったりします。その債券は、保有期間中、途中で第三者に売却することも可能です。

<債券の発行から満期までのイメージ>

<債券の発行から満期までのイメージ>

※利金(クーポン)の支払いは債券により異なります。また、図は一般的な債券のイメージです。

債券の種類

発行通貨、発行体別の債券(例)(国債 個人向け国債 地方債 政府保証債 事業債 転換社債 ワラント社債 サムライ債 ユーロ円債 国債機関債 民間債(社債) 仕組債)

様々な債券がありますが、国債・社債の多くは固定の利札(クーポン)のある利付債券の形で発行され、既発債が市場で売買されています。

金利が上がると債券価格が下がる=債券の価格とは

利付債券は一番基本的な形態で、その利付債券の利払い・額面の支払いを図示すると以下のようになります。

利付債券のキャッシュフローの概念図

下の青い四角部分は債券の額面部分を、上部の三角部分は利札(クーポン)を表わしています。例えば、10年満期の利付債で、毎年、1%の金利が払われるとした場合、額面部分は金額(100万円)でクーポンは1万円となります。債券発行後、期日の経過で日々クーポンが積み上がって1年経過すると1万円のクーポンが支払われますので、クーポン部分が直角三角形で表現されているのです。そして10年経過すると額面100万円と最後のクーポン1万円が支払われて債券が償還(消滅)することになります。
大方の利付債券の性質はこのように額面とクーポンが決められて固定されています。

もし市場金利が1.5%だとすると、投資家(買い手)の観点からは上記の額面100万円で1%のクーポンの債券は不利な投資対象になります。投資家は市場金利で運用すれば良いので、債券を額面以下、市場金利の水準に見合うまで価格が下落しないと買いません。一方、市場金利が0.5%だとすると上記の額面100万円で1%のクーポンの債券はとても有利な投資対象になりますので、市場金利の水準に見合うまで債券価格が上昇しないと保有者(売り手)が売ってくれないので買うことができません。このように市場金利と債券価格は連動するメカニズムがあるのですが、その連動が逆連動になっているのが感覚的にピンとこない方も多いのではないかと思います。

債券投資とは

上述のように債券は、額面で発行され、その額面に対して何%かの利金を債券保有者に一定の期間毎に支払い、満期に額面金額を返金する券面(有価証券)ですので、投資期間中は一定の利金を受け取ることになります。また、金利変動は株式などよりも変動性が低い傾向にありますし、動きが違います。
以下の株式と債券の指数について、円を投資基準とした2010年12月末から2023年12月末までの年次のリターンを見比べてみたいと思います。

2010年12月末から2023年12月末までの年次リターンの推移

資産区分と指数名称

※信頼できる情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

2011年は株式が不調でしたが、債券、特に米国債券は比較的好調でした。2021年を見ると、米国株(先進国株)が好調な一方、債券は不調でしたが、2023年は米国債券(為替ヘッジ)以外の資産は好調でした。収益の出方に違いがあるのがおわかりいただけると思います。そこで各資産の動きの連動度合を見てみましょう。

2010年12月末から2023年12月末までの年次のリターンの相関係数

2010年12月末から2023年12月末までの年次のリターンの相関係数

※信頼できる情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

2010年12月末から2023年12月末までの年次のリターンの相関係数です。1だと動きが同じということで、数字が低ければ動きが違う、マイナスだと逆の動きを表します。ここでも株式と債券の動きが違うのがお分かりいただけると思います。
また、同期間の価格変動性(リスク)を見てみると、債券は株式と比べると相対的に価格変動性(リスク)が低いことが分かります。

2010年12月末から2023年12月末までの価格変動性(リスク)

2010年12月末から2023年12月末までの価格変動性(リスク)

※信頼できる情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

よって、債券投資は価格変動性を抑えつつ利金収入を得ることができ、その価格変動特性が株式との相関性が低いことで運用ポートフォリオの基礎的なクッションとしての機能が期待できるものになっています。

債券投資の方法

債券投資方法としては、以下の3つが一般的な方法です。
① 直接債券を買い付ける
② 債券に投資している投資信託を買い付ける
③ 債券に投資しているETF(上場投資信託)を買い付ける

◆ ①直接債券を買い付ける

直接債券を買い付けにあたっては、取引をする証券会社(銀行)によって違いがあります。日本国債ですと、個人向け国債は1万円、利付国債は5万円から、米国債ですと100米ドルから1,000米ドル(①1.5万円から15万円)くらいからのようです。なお、一般的に債券の取引単位は大きく、事実上、個人では取引できる銘柄が限定的になります。

◆ ②投資信託を買い付ける/③ETFを買い付ける

投資信託は1万円以上1円単位のものが多く、当社の米国債に投資するETFだと1.5万円くらいからですが商品によって様々な売買単位になっています。投資信託やETFは個々の商品仕様を確認する必要があります。しかしながら運用管理の観点からは、ETFの場合、どこの証券会社からでも購入でき、株式と一体で証券口座内において管理できて損益状況の把握がしやすいというメリットがあります。また、ETFはファンドの期限が無く(信託期間は無期限)、ETFが保有している債券が償還、残存期間が投資対象期間を下回った場合、ETFの運用担当者が当該ETFの投資目的にかなった債券を買い付けます。一方、直接債券に投資した場合、満期償還で受け取った現金をそのままにしてその後は運用をしていなかった状態になるということも起こりえます。ETFや投資信託は信託報酬などのコストがかかりますが、運用担当者が投資家の代わりに運用期日管理をする側面もあります。

*2024年3月末時点

上記をまとめると、以下のようになります。

債券投資の方法 まとめ

債券投資のメリット

収益額が前もってわかる

債券投資のメリットとしてよく言及されるのは収益額が前もってわかるということです。前述のように、利付債券の性質は額面とクーポンが決められて固定されていますので、償還期限まで保有すればどの程度の収益があるのか前もってわかるということです。収益を見越した資金計画を立てることもできるので、安定性の高い投資を実現できる可能性があります。ただし、債券の償還前に売却すると、そのときの金利水準によって損失が出る場合もあれば収益が出る場合もあります。よって、複数銘柄の債券を運用し、債券の入れ替え運用を行う投資信託、ETFについては当てはまらないことはご理解ください。

銀行の預金金利よりも高い金利

個々の債券の利回りが銀行預金よりも高いと言われることがあります。ただ、利札(クーポン)だけを見ていないか、その債券をいくらで買うかによって利回りが変わりますので留意が必要です。銀行の預金金利よりも高い金利で運用できるということは、銀行の信用力と比較して信用リスクが高い発行体の債券なのか、またまた残存期間の長い債券なのが高い金利のもとになっているのか理解が必要です。

価格変化の特性が株式とは違う=分散投資ツールとして有効

前述の「債券投資とは」でご説明しましたが、金利変動は株式などよりも変動性が低い傾向にありますし、動きが違います。これが中長期のポートフォリオ運用の分散投資ツールとして有効な性質を持っています。

債券投資のデメリット

株式よりはリスクは低いもののリスク資産であること

代表的なリスクは
①発行体の債務不履行リスク(信用リスク)、
②価格変動リスク、
③外貨建債券の場合、為替変動リスクがあることです。
なお、債券は株式に対して相対的にリスクが低いことは、一面メリットではあるのですが、逆に株式のような大きな収益は期待できないということが言えます。

意外に分かりにくい損益特性

市場金利と債券価格は連動するメカニズムがあります。その連動が逆連動になっていることや、債券の収益性を計る場合、その都度、固定された額面と利札(クーポン)と債券価格を比較して計算する必要があり、直感的に分かり難いということがあります。特に複数の銘柄で運用する場合に顕著です。
日興アセットの債券ETFでは、少しでも特性をご理解いただけるようにETFの保有する債券の平均クーポン、平均直接利回り、平均最終利回り、平均残存期間を開示しています(例:1486 - 上場インデックスファンド米国債券(為替ヘッジなし))。

債券の買い時・売り時

債券の基本的な価格変動特性は、金利が上がると値段が下がる、金利が下がると値段が上がります。ただし債券の期間によっては、そうならない場合もあります。ご関心のある方は「コラム もっと知りたいETF: No.56 債券の興味深い特性と投資する意味」をご覧になってください。
機関投資家にはこのような特性に着目して債券売買を頻繁に行う投資家がいますが、なかなか売買タイミングを測ることは難しく、一般の投資家、個人投資家には不向きなものかと思います。売り買いのタイミングを考えるよりも、運用資産ができた時や現在の資産の投資配分を考えた時に、債券投資のメリット、
・価格変動性を抑えながら利金収入を得ることができること
・その価格変動特性が株式との相関性が低いこと
をふまえて、債券をポートフォリオの基礎的なクッションの役割とし、株式などの資産と一緒に運用するポートフォリオ運用を行うのが良いのではないでしょうか。

まとめ

債券投資の意味を考える場合、その価格変動特性から、景気回復期は金利が上昇しやすいので投資する意味がないと思われることもありますが、中長期の資産運用の観点からは、資産運用の中心資産となる株式との値動きの違い、利金収入に着目し、ポートフォリオ運用を行うための重要なクッション部分となる分散投資ツールとして考えるのが良いのではないでしょうか。

(以上)

各指数の著作権については以下のリンクから該当の部分をご覧ください。

[今井監修]ETFのキホンシリーズ

「ETFのキホン」シリーズでは投資家の皆様にETFを良く知っていただいて、より良く活用していただきたいとの思いで書かせていただいています。