新NISAの成長枠投資は高配当ETFに注目が集まっています~留意点も解説

新NISAの成長枠投資は高配当ETFに注目が集まっています~留意点も解説

  • 公開日:2024年1月29日

今井 幸英

筆者 今井 幸英(いまい こうえい)
ETFセンター・シニア・アドバイザー

1985年4月 株式会社日本興業銀行入社。みずほフィナンシャルグループ(みずほ総合研究所、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現 アセットマネジメントOne))を経て、2006年12月 日興アセットマネジメント株式会社に入社、2008年8月よりETFビジネスに従事。2020年11月から現職。2012年、2013年 武蔵大学経済学部 非常勤講師、2014年 学習院大学経済学部 非常勤講師。長い運用商品開発の経験を活かし、ETFの開発、ETFビジネスの推進活動を行っている。

投資成果が非課税になるNISA制度が大きく改善され、新NISA制度を活用した投資機運が高まっています。ETFから得られる分配金も非課税となることから、特に高い分配金が期待できる高配当ETFが、新聞、雑誌、ネット上で関心を集めています。通常なら分配金・売却益にかかる源泉税20.315%(源泉徴収ありの特定口座(源泉徴収選択口座)を選択している場合)が無いのですから、投資家の感心も高くなるのも道理です。
今回は新NISAの成長投資枠で高配当ETFに投資をするにあたっての考え方についてまとめてみたいと思います。

新NISAの成長枠投資枠とは?

NISAでETF(上場投資信託)に投資したほうがいい?」でも記載しましたが、新NISA制度の成長投資枠の概要は以下の表にようにまとめられます。

新NISA 成長投資枠 概要

投資家 日本在住の成年(18歳以上)
口座数 特に制限なし
成長投資枠とつみたて投資枠の併用が可能(一般NISAとつみたてNISAから新NISAへの移管は不可)
投資対象 株式・投資信託(ETF含む。信託期間20年未満、レバレッジ型および毎月分配型の投資信託を除く)
年間投資枠 240万円
非課税保有限度額
(生涯投資枠)
非課税保有限度額総額 1800万円のうち、
成長投資枠は1,200万円
非課税対象 保有期間中の分配金と売却益(譲渡益)
非課税投資期間 無期限
払出し 特に制限なし

なぜ高配当ETFに注目?

NISAでは保有期間中にかかる配当・分配金にかかる通常20.315%の課税が無くなるということで高配当な投資商品に注目が集まっているのだと思われますが、さらに高配当ETFは、NISA制度の恩典を十分に受ける、分散投資でリスク分散をする手軽なツールとして好ましいと思います。

NISA制度の恩典を十分に受ける高配当ETF

新NISAの成長投資枠で投資できる対象商品は、上場株式、株式投資信託・ETF、REITになっています。分散投資されていて個別銘柄の確認が不要な対象商品は株式投資信託・ETFになります。しかしながら株式投資信託では分配金が特別分配金(元本払戻金)となる場合があり、この特別分配金(元本払戻金)は元々非課税ですので、普通分配金(課税対象)しか出さないETFのほうがNISAの非課税の恩典を受けることにおいて好ましいと考えられます。
なお、分配金を受け取るということは運用資産を取り崩す性質があることにはご留意ください。

債券やREITにも投資可能。高配当ETFを組み合わせた分散投資でリスク分散

NISA制度において債券への投資は株式投資信託・ETFで可能です。高配当株式やREIT、高利回り債券に投資をする高配当ETFは、上述のNISA制度の恩典を十分に受けることを考え合わせると有利です。複数の高配当ETFに投資して資産クラスを横断した分散ポートフォリオを組成することが可能です。

個別銘柄の調査・選定の手間がかからない、手軽なツールの高配当ETF

NISA投資対象商品の高配当な上場株式、REITに投資する場合、個別銘柄の確認が必要になります。また、高配当な上場株式、REITへの投資では減配や個別銘柄の信用リスクが発生した場合、直接影響を受けてしまいます。これはそれらに投資している株式投資信託・ETFでも影響はありますが、株式投資信託・ETFは複数銘柄に分散投資されているので影響が限定的です。また、株式投資信託はお取引をする金融機関によって投資できる商品がまちまちですが、ETF(高配当ETF)であればどこの証券会社(NISA取引金融機関)でもお取引でき、手軽に投資が可能です。

高配当ETFがおすすめの人

ETFの選び方は?」で整理しましたが、運用目的で特に「①利金・分配金を得たい投資家」におすすめしたいと思います。なお、NISA口座で得た配当・売却益(譲渡所得)は、原則として確定申告が不要ですので高配当ETFは便利な投資対象かと思います。

あなたにぴったりな高配当ETFは?

利金・分配金を目的に投資をするなら、高配当ETFを選ぶという考え方もあります。日興アセットでは「特集 比較的高い分配金利回りが期待できるETF」と称してETFの利回りランキングを掲載しています。 しかしながら、ポートフォリオのコア(中核部分)として投資するなら少し配当利回りは低いものの、過度なリスクを取らないことを意図して、高配当日本株、日本の不動産投資信託(REIT)、先進国の国債に投資する高配当ETFを検討されては如何でしょうか。

●主に高配当日本株に投資する当社ETF

  上場インデックスファンド日本高配当(東証配当フォーカス100)(1698)

日本のETF市場においては高配当ETFの先駆けの商品です。分配期待の投資家のみなさまのご期待を裏切らないように分配金が変動してしまう希薄化・濃縮化の問題に取り組んだETFです(分配金の希薄化と濃縮化について詳しくは「コラムもっと知りたいETF No.2 分配型ETFは悪いファンド? 分配変動(希薄化と濃縮化)のコントロール ~上場高配当」をご覧ください)。

●不動産投資信託(REIT)に投資する当社ETF

  上場インデックスファンドJリート(東証REIT指数)隔月分配型(ミニ)(2552)

株式とは違う資産クラスで高配当の資産クラスとしては不動産投資信託(REIT)があります。基本、東京証券取引所に上場している全REITに投資するETFです。分配期待の投資家のご期待を裏切らないように分配金が変動してしまう希薄化・濃縮化の影響を、このETFは分配頻度を上げる=隔月分配にすることで減らしています。

●債券(外国債券)に投資する当社ETF

  上場インデックスファンド豪州国債(為替ヘッジなし)(2844)

高金利通貨国の国債、オーストラリア国債に投資するETFです。日本高配当株、不動産投資信託(REIT)と違う資産クラスで資産分散先として有効な投資対象かと思います。このETFではオーストラリア国債に投資する私募投信に投資をすることによって希薄化・濃縮化の影響をコントロールしています。

高配当ETFがおすすめではない人

ETFの選び方は?」で整理しましたが、運用目的で特に③投資元本の成長を目指したい、NISA制度の運用効率化を強く考える投資家には高配当ETFはおすすめではないと思っています。
分配金を受け取っても、その資金をNISAで再投資することは可能なのですが、再投資をすることで限られた投資枠を使ってしまいます。NISAの運用がプラス運用になることが大前提ですが、投資元本の成長を目指す場合、分配金を出さないようにすることが投資枠の有効活用からは好ましいからです。
このことについて、簡単な事例で確認してみたいと思います。次の表ですが、毎年5%の運用が20年できたとして、その運用成果を無分配再投資した場合と分配(再運用しない)した場合の比較です。参考のためNISA投資以外の投資の例として源泉徴収ありの特定口座での投資を比べてみました。

<シミュレーション> 毎年5%の運用が20年できた場合の投資成果比較 NISA口座と源泉徴収ありの特定口座での投資

※表はシミュレーションの結果であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
※元本100.0を20年間毎年5%で運用できたとします。①NISA投資 無分配再投資型では、運用結果の純資産が256.3になり、純資産から元本を差し引いた運用成果が165.3、税金がかからないので投資成果は165.3になります。②源泉徴収ありの特定口座投資 無分配再投資型では、運用結果の純資産が256.3になり、純資産から元本を差し引いた運用成果が165.3、税金が-33.6かかるので投資成果は131.7になります。③NISA投資 分配型では、毎年の運用成果5.0が毎年分配されますので分配金の総合計は100.0になり、税金がかからないので投資成果は分配金の総合計の100.0が投資成果になります。④源泉徴収ありの特定口座投資 分配型では、毎年の運用成果5.0が毎年分配され、課税後3.98を受け取りますので課税後分配金の総合計は79.69になり、こちらが投資成果になります(小数点2桁以下は四捨五入をしています)。

投資成果は
①NISA投資 無分配再投資型
②源泉徴収ありの特定口座投資 無分配再投資型
③NISA投資 分配型
④源泉徴収ありの特定口座投資 分配型
の順番となります。運用がプラス運用になることが大前提ですが、無分配で再投資するほうが運用効率は高くなります。個人の資産形成を目的とした新NISAで毎月分配型の株式投資信託・ETFが対象商品から外された理由はここにあると思います。

新NISAの成長投資枠の上手な使い方

年240万円の投資枠、毎月にならすと月20万円で投資できる金額です。また、使った投資枠で売却して空いた分は翌年復活する制度となっています。さらにNISA口座を開設することになる証券会社の一部ではETFの売買手数料が無料化されています。

年240万円の投資枠、毎月にならすと月20万円で投資できる金額です。

そもそも投資という行為を考えてみますと、投資はその成果が表れるまで時間がかかります。言い換えると投資は時間を有効に使うことが必要で、本来的には早くスタートしたほうが時間をしっかりと使えるので好ましいということです。
極端な新NISA成長投資枠の活用方法かもしれませんが、ありったけの資金で年間の投資枠240万円を埋めに行き、全額運用対象に選んだETFを買い付け、必要な資金が発生したら、買い付けたETFを売却して資金を用意するといった方法です(売却した投資枠は翌年復活します)。証券会社によってですが、ETFの売買手数料もかかりませんし、資金を証券会社から銀行口座に回金するにも手数料がかかりませんので、このような活用も考えられます。しかしながらこのような運営は実行すると資金繰りがたいへんだと思いますので、やはり、当たりまえかもしれませんが、ご自身の資金状況、資産配分をどうするかを考えることが必要です。「ETFの運用方法について」もご参考にしていただければと思います。
ともあれ新NISAの成長枠投資の上手な使い方は早くその投資枠を埋める(使う)ことかと思います。

新NISAの成長枠投資の上手な使い方は早くその投資枠を埋める(使う)ことかと思います。

新NISA制度の利用について留意点

なお、NISA制度の利用について留意点があります。「NISAでETFに投資したほうがいい?」でも書かせていただきましたが、証券会社で開設した証券口座の配当金受取り方式をそれぞれの証券口座で受け取る株式数比例配分方式にしておかないと配当金(分配金)が非課税になりません。しかしながらその受取配当金(分配金)を忘れてしまって証券口座内で滞留させてしまいがちなことです。資金運用の効率化の観点からは注意したいポイントになります。というのは、受取配当金(分配金)はご利用の証券会社によって違いますが、証券口座内で預かり金またはMRFになっていて、これらの資金への付利があまり期待できませんので、そのまま資金を寝かせておくのは運用上非効率になることがあります。特に複数の証券口座に分散させている投資家は陥り易いと思われ、証券口座の定期的なチェックをおすすめします。

まとめ

資産形成、運用効率を高めようとしたら、新NISAの成長枠投資枠は早く投資してなるべく分配金を受け取らないようにするのが効率的です。一方、資産形成が済んで、資産の活用期間を長くするために高配当ETFを活用し、分散投資でリスクを分散するのが好ましいのではないかと思われます。
投資家の皆様もご自身の運用目的を確認して、新NISAの成長投資枠を活用して、その目的達成を成し遂げていただければと思います。

(以上)

※上記は 2024年1月1日現在のものですので、税法が改正された場合などには、税率などの課税上の取扱いが変更になる場合があります。税金の取扱いの詳細については、税務専門家などにご確認されることをお勧めします。

[今井監修]ETFのキホンシリーズ

「ETFのキホン」シリーズでは投資家の皆様にETFを良く知っていただいて、より良く活用していただきたいとの思いで書かせていただいています。