ETFの手数料とは?ETF投資に必要なコストを解説

ETFの手数料とは?ETF投資に必要なコストを解説

  • 公開日:2023年5月16日

今井 幸英

筆者 今井 幸英(いまい こうえい)
ETFセンター・シニア・アドバイザー

1985年4月 株式会社日本興業銀行入社。みずほフィナンシャルグループ(みずほ総合研究所、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現 アセットマネジメントOne))を経て、2006年12月 日興アセットマネジメント株式会社に入社、2008年8月よりETFビジネスに従事。2020年11月から現職。2012年、2013年 武蔵大学経済学部 非常勤講師、2014年 学習院大学経済学部 非常勤講師。長い運用商品開発の経験を活かし、ETFの開発、ETFビジネスの推進活動を行っている。

他の人に働いてもらうとその対価としてお金をお支払いする必要があるのはご納得いただけると思います。ETF投資をするときも色々な人の手を借りることになりますので、ここでもお金(コスト)がかかります。ETF投資の一連の流れ、購入時、保有時、分配時、売却時にどのようなサービスを受けてコストがかかるのか整理・確認してみたいと思います。

ETFにかかるコストとは

投資家がETFの購入時、保有中、分配時、売却時にETFの関連各社(証券会社、運用会社、受託銀行)がどのように受益者のために働くのか、以下のように要約できます。

ETFの購入時から売却時までのフロー表

ETFの購入時から売却時までのフロー表

売買委託手数料(購入時)

ETFの購入時から売却時までのフロー表

ETFの購入時から売却時までのフロー表

購入時の売買委託手数料とは、投資家がETFを購入するときに証券会社へ支払う手数料です。売買手数料とも言われますが、正確な呼び名は売買委託手数料と言います。 この売買委託手数料に関しては、証券会社、また、手数料プランによってまちまちとなっています。売買金額が大きくなれば段階的に手数料率を低減させる料金体系が一般的でしたが、一定の金額以下であれば手数料がかからない料金体系もあり証券会社によって様々です。前出フロー表の証券会社の青の網掛け部分の仕事に対応した手数料になります。
実は取引所で売買に参加できるのは証券会社等の資格を持った会社に限定されています。よって一般の投資家はその資格を持った会社(証券会社)にETFの売買を委託して取引してもらい手数料を支払います。そのため売買委託手数料と言います。
1990年代後半の金融システム改革(日本版ビッグバン)以降、金融仲介サービスの質の向上と競争の促進の施策によって売買委託手数料の引き下げが進んでいます。

では、投資家がETFを購入する際、その裏側ではどのようなことが起きているのでしょうか。
まず、証券会社が売買注文を取引所に取次、その注文が成立(約定)すれば顧客から預かっている金銭を払ってETF受益権を受取り、顧客の証券口座内でその受益権を保管します。
市場に流通しているETF受益権が不足する場合(ETFを購入したい投資家が多い場合=買いの場合)、特定の証券会社(指定参加者)がETF受益権の設定申込を運用会社にします。運用会社はETFの受益権発行の見合いとして株券や現金を指定している受託銀行(信託銀行)の口座で受け取り、運用会社と受託銀行はETF受益権を設定、発行します。そしてETFが運用目標とする特定の指数に連動するようにETF内の有価証券売買を行い、その管理を受託銀行に指図し、受託銀行は有価証券の保管を行います。

購入

信託報酬 (保有時)

ETFの購入時から売却時までのフロー表

ETFの購入時から売却時までのフロー表

信託報酬とは、投資家がETFを保有している期間(分配時を含む)にETFの残高に対してかかる手数料になります。フロー表の運用会社と受託銀行の仕事に対する報酬になり、赤枠内の部分に対するものです。信託報酬は、委託会社=運用会社分と受託銀行分にわかれます。
信託報酬(委託会社=運用会社分)は、主にETF資産の運用・管理(投資資産売買、受渡指図)、有価証券の権利(配当・分割など)処理、毎営業日の基準価額算出業務にかかる費用になります。
信託報酬(受託銀行分)は、運用会社の指図を受けて行うETFの投資資産管理、有価証券の権利(配当・分割など)処理、毎営業日の基準価額算出にかかる費用になります。
これらの信託報酬は負債として毎営業日計上されて、日々、基準価額に反映されます。

ETFの純資産総額(総資産総額-負債負債総額)÷発行済受益権口数=基準価額

そしてETFの決算時に、ETFから運用会社・受託銀行に信託報酬が支払われます。

投資家がETFを保有している期間中の運用会社と受託銀行の業務についてもう少しご説明いたします。
運用会社はETFが運用目標とする特定の指数に連動するようにETF内の有価証券の運用・管理を行います。受託銀行は運用会社の指図に基づいて、保有有価証券の管理を行います。そして毎営業日、運用会社と受託銀行がそれぞれETF内の資産状況を確認し、照合をして基準価額を算出、発表します。また、運用会社は運用状況を開示します。あまり認知されていないのですが、ETF保有銘柄の議決権行使にあたっては運用会社のアナリストが当該銘柄の発行会社と会話、調査を行う場合があります。また、受益者利益のためにETFの保有銘柄を貸し出してパフォーマンスの向上を図ることもあります。

保有

そしてETFの決算時(分配時)ですが、運用会社と受託銀行がそれぞれ分配可能原資を確認し、運用会社が分配金額を決定し受託銀行に支払い指図をします。一方の受託銀行は証券保管振替機構経由で証券会社から投資家情報を入手し、課税処理(源泉徴収税)をしてから投資家に分配金を支払います。このETFの決算時にはETFの財務諸表(貸借対照表、損益計算書)が作成され、公認会計士による監査が行われます。

※決算頻度が年1回の場合:年2回監査(中間、本決算)、決算頻度が年2回以上の場合:年2回監査(6ヵ月毎)

分配

売買委託手数料(売却時)

ETFの購入時から売却時までのフロー表

ETFの購入時から売却時までのフロー表

売却時の売買委託手数料とは、購入時と同じく売却時に証券会社に対して支払う手数料です。

売却時には信託財産留保額がかかる?

本当は手数料ではないのですが、解約時の手数料と勘違いされることのある信託財産留保額があります。ETFの場合、取引所での売買と設定・解約があって混乱しやすいのですが、ETFを設定・解約するときに信託財産留保額がかかるETFがあります。信託財産留保額はETFの購入時には関係のないものです。
ETFの設定・解約時にはETF保有有価証券を売買するときにコスト(売買委託手数料やマーケットインパクト(売買によって値段を動かしてしまうこと))がかかります。このコストをETFに負担させると、設定や解約をした投資家だけでなく、他の投資家もそのコストを負担させてしまうことになることがあります。そのため、その埋め合わせのためにファンドに財産を残してもらう(留保する)ものです。

なお、ETF設定・解約時に運用会社によって手数料が徴求されるETFがあります。国内ETF では見られない手数料ですが、外国籍ETFにはあるものがあります。

では、投資家がETFを売却する際、その裏側ではどのようなことが起きているのでしようか。
まず、証券会社が売買注文を取引所に取次 、その注文が成立(約定)すれば顧客から預かっているETFを受け渡して売却代金を受取り、顧客にその売却代金を支払います。
市場に流通しているETF受益権が多い場合(ETFを売る投資家が多い場合)、特定の証券会社(指定参加者)がETF受益権解約の申込を運用会社にします。運用会社はETFの受益権解約(抹消)と引き換えに株券や現金を証券会社に受け渡します。

売却

その他のコスト

日々の基準価額に織り込まれる、商標利用料(指数ライセンス料)、上場審査料・新規上場料、上場料、監査費用、組み入れ有価証券の売買委託手数料など、その他のコストがあります。
なお、ETFの分配金に関して、基本、税金がかかりますが、こちらは別の記事でご説明します。
現在、国内ETFは、指数(インデックス)や価格に連動する運用成果を目指すインデックス型しか組成・上場できないため、指数や価格など指標が必要になります。指標に対して権利(知的財産権)を持っている会社があります。例えば、日経平均株価であれば日本経済新聞社、TOPIX(東証株価指数)であれば株式会社JPX総研または株式会社JPX総研の関連会社(以下「JPX」という。)がそれぞれの権利を持っています。ETFは指標に対して権利を持つ会社から許諾を得て、指数値や商標を使わせてもらうことになり、その対価として商標利用料(指数ライセンス料)を支払います。
また、ETFを取引所に上場させる際に上場審査料・新規上場料、上場中には上場料がかかります。そして上場会社と同様にETFが適正に計理されているか決算毎に公認会計士による監査を受けなければならないので監査費用がかかります。
ETFが有価証券売買を行う際にも証券会社に払う組み入れ有価証券の売買委託手数料がかかります。この費用は保有有価証券の簿価に反映され、基準価額に織り込まれます。

ETFの手数料は割安?

投資信託に対してETFの手数料が割安と言われることがあります。というのは投資家がETFや投資信託を保有している間に投資家が負担している代表的なコストは信託報酬ですが、投資信託の場合は販売会社(証券会社・銀行等)に払う分が含まれているのですが、ETFの信託報酬には販売会社=証券会社分への支払いが無いからかと思います。
株式や債券といった元の証券とETFの対比に関しては、ETFは株式や債券といった元の証券を包んで(パッケージして)上場したファンドですので、そのETFのコストそのものが上乗せされたものになりますので、割高と考えられなくもありません。しかしながらパッケージされたファンドの便利さがETFにはあります。

手数料負けとは

運用成果よりも手数料が上回ってしまい、期待された運用成果が出ない、または、損失となってしまうような場合を指します。
手数料がかかるものであれば手数料負けをすることが考えられます。そうすると手数料負けを回避するには限りなく手数料の安いものを選ぶということが考えられますが、運用管理のコストは必ずかかります。そのため、あまりに安いものは運用管理の質に問題がないかしっかりと確認することが必要です。また、あまりに安いものはその継続性にも疑念が生じます。類似商品との比較や運用会社の実績などを見て判断する必要があるのではないでしょうか。具体的には、中長期の運用パフォーマンスが連動対象指数や類似商品のパフォーマンスに大きく劣後していないか。一方、類似商品の手数料に比して極端に安い場合、その運用会社の全体の運用実績から継続性に心配がないのかといった観点で見直してみるといったことです。類似商品との比較や運用会社の実績などを見て判断する必要があるのではないでしょうか。

ETF投資の一連の流れ、購入時、保有時、分配時、売却時にどのようなコストがかかるのか、その背景にどのようなサービスを受けているのか整理・確認してみました。
国内ETFはインデックス運用、パッシブ型が多くを占め、アナリストを使った調査業務が無いので手数料が安いといった説明がされることがありますが、実態は幅広い銘柄を保有することからマイナーな銘柄も保有、運用会社のアナリストが当該会社との会話・調査を行って議決権行使を行うこともありますので適正な説明ではないように思います。インデックス運用、パッシブ型は実行し易い運用手法なので、競争環境が厳しく、手数料が高く設定できないものではないかと思っています。それがゆえに投資家にとっては手数料が使いやすい水準の運用商品となっているのがETFではないかと思います。

(以上)

[今井監修]ETFのキホンシリーズ

「ETFのキホン」シリーズでは投資家の皆様にETFを良く知っていただいて、より良く活用していただきたいとの思いで書かせていただいています。